15人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくときみの出会い
僕の名前は林源三郎。生まれたのが偉大なひぃ爺さまの命日で、生まれ変わりではないか、と、そう名付けられた。
容姿は名前には似合わず、誰もがお人形さんのようだ、と絶賛する程可憐だった。
父は各種武道を嗜み、合気道の師範で、母は華道の家元を継ぐ、純和風な家庭に育ち、性格は父親譲りで、容姿は母に似ていた。
僕と彼が出会ったのは、白樺学園幼稚舎に通っていた頃だった。
僕と同じくらい華奢で、伏せ目がちな長い睫毛にぽってりとした唇、ふわふわのくせっ毛の彼はとても可愛かった。
僕は容姿や名前のことでからかわれたことがあったけど、父に習った合気道に、見た目とは違う男らしい性格で、一気にクラスのボス的存在になった。
隣のクラスの彼はいつもぼーっとしていて、しょっちゅうからかわれていた。
彼の名前は滝川竜。
ある日、竜が僕の目の前で他の男の子に突き飛ばされて転んだ。
何も言わない竜にも腹が立ったし、無抵抗な相手に手を出す奴らには本当に腹が立って、そいつらを殴ってやった。
竜はびっくりした顔で僕を見つめた。
「やられっぱなしでいいのかよ」
僕はいらついて竜に言った。
「んー」
「んーって! 」
「ありがと」
竜がじっと僕の顔を見つめ、にこっと笑った。
その笑顔を見た瞬間、僕はなんだか放っておけなくなり、それから何かと一緒にいるようになった。
「はやしげんざぶろう? かっこいい」
「…僕はやだよ」
「あだ名つければ」
「あだ名…げん…んー」
「林ってリンとも読める、リンにしよ」
竜は普段無口だったけど、僕といる時はいつもより少し話した。
暫くして竜が僕の父の道場に通うことになり、ほとんどの時間を僕らは一緒に過ごした。
「リンって本当に綺麗でかわいい」
竜はいつもそう言っては、僕に抱きついた。僕は竜の方がかわいいと言って、いつも二人でそうやってじゃれあっていた。
僕が初等部にあがる前に、体が弱かった母は急死し、三年になる頃、父は再婚した。
僕はその頃から、父の気をひこうと、母に自分の容姿が似ていることを知っていたので、母のように振る舞うように心掛けた。
新しい父の奥さんはいい人だったけど連れ子もいて、僕は母さんとは呼べず、二人の間に子供が生まれてからは更に、竜の家に入り浸るようになっていた。
竜の家は立派な洋館で、まるで童話にでてくるようなお城みたいだし、竜の家族も僕は大好きだった。
「リンずっと一緒にいよう」
竜はいつも僕にそう言った。
「でも竜、人は死ぬんだよ。いつかは別れる覚悟をしといた方が、きっとその時つらくないよ」
「僕はリンより先には死なない」
竜は優しく僕を抱き締めて、涙を流した。僕は何か悪いことを言っちゃったんだと思って、竜の涙を拭いた。
それから相変わらず、竜はいつでも僕の後をついて歩いていた。
「竜~、一緒に寝よっ」
中等部は全寮制で僕と竜は同じ部屋になり、四六時中一緒にいるようになった。
「ん」
竜が僕の分のスペースを空けてくれて僕らはお互いが身体の一部で、触れあっていないといられないくらい、ずっとぴったりくっついて眠った。
だけどその状況が、段々と変わり始めた。
「あれ? 竜、身長伸びた? 同じくらいだったのに…」
二年になってから竜は急に身長がどんどん伸び始め、身体つきも変わり始め、僕は戸惑った。
合気道も僕よりめきめき上達し、それまで余裕で勝っていた練習試合で僕は負けなかったけど、竜が手を抜いたことに気付いた。
「竜! 手抜いただろ? 今のお前の勝ちだったじゃん! 」
「…」
「ふざけんなよ! なめてんの? オレのこと、自分ばっかり身体でかくなったからって! 」
「違う、リンに痛い思いさせたくない」
「それがなめてるっていうんだよ! 」
僕はそのことを切っ掛けに、少しずつ竜を避けるようになった。
だけどそれは切っ掛けに過ぎず、本当は戸惑っていたんだ。
僕は相変わらず華奢なままで、竜はいつの間にか男らしく、かっこよくなってきて、モテるようになったことに。
何故だか、竜を見ると心がざわざわして、身体にまで響く。
今までは平気で触りあったりしていたのに、竜が僕を触っていた手をみるだけで、どきどきして息もくるしくなるんだ。
最初のコメントを投稿しよう!