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大学入試、無事乗り切る
葬儀自体は無事に執り行われた……と思う。あまりに目まぐるしかったのでその間の出来事がほとんど記憶に留まっていない。今は叔母もリョウも家に戻り、自宅には私と骨壷に収まった母の遺骨だけがぽつねんといる。
ただいつまでもこうしておられず、気休め程度ではあるがセンター試験に向けての勉強をした。本当にただ机に座って参考書を広げました程度で、試験に関することは何一つ頭に入っていないのだが。
それでもその日はやって来る。私は適当に身支度を済ませて受験する大学のあるA県……正確には叔母の自宅兼店舗のあるお隣F県に向かう。調べてみると叔母の自宅はA県とF県の県境にあり、片道一時間もあれば通える距離であった。であればヘタな出費を抑えて世話になった方がいいと思い、二泊程度厄介になることにした。
リョウと同じ屋根の下で暮らしていると知った時は若干気が引けた。しかしたかだか二泊程度だ、どのみち直前の追い込み勉強でもしてれば顔を合わせることも無いだろう。私は試験勉強と称してほとんど部屋にこもり、どうにか試験を乗り切った。
それから大体二週間後に高校を卒業し、無事合格通知も頂いた。本当であれば部屋探しもとおに終わらせておきたかったが、そこに気が回らず当面の間は叔母の家で暮らすことになった。
『部屋はたんまり余ってんだ』
以前聞いたその言葉の通り、住居兼店舗の叔母宅は三階建で最低でも六部屋はあった。住民である叔母は一階居間を、リョウは二階八畳間を使用している。私は二階八畳間を充てがわれ、荷物は全てそこに運び入れた。
「足りなきゃあと一部屋分使っていいよ」
母の遺品整理ができなかったのでその言葉はありがたかった。私はリョウの部屋と隣接しているそこを荷物置き場にし、少しでも距離を取れる部屋に自分の荷物を入れた。叔母は必要ならリョウをこき使えばいいと言っていたができれば関わりたくない、奴も同じ思いだったようで私の引っ越し作業に一ミクロンの興味を示さなかった。
その日の夜、叔母というかリョウがそれなり荷盛大な料理を作ってくれた。一応歓迎会ってことらしいのだが異常に量が多い気がする、誰か来るのだろうか?
「これ何人分?」
そう尋ねてみたが誰も答えない。叔母は台所と座敷を行ったり来たりし、リョウは調理中で背中を向けている。
「あぁ、いたんだね」
「うん、量多くない?」
「そりゃあ六人分だから」
六人? あと三人誰よ?
「誰か呼んでんの?」
「呼んでるも何も三階の住民」
そんなの聞いてない……面食らっているところにただいまぁと男の声が玄関から聞こえてきた。誰?
「この声は多分ナガノさんだね、これ宜しく」
叔母はたんまりと料理が乗った木製のくそデカい盆を押し付けてきた。反射的に受け取ってしまったので仕方なくそれを座敷に運んでいると既に先客が二名いた。
「合格おめでとうはるなちゃん」
「また背伸びたのか? さすが母娘だな」
何故ここにいるんだ? 私は一応面識のあるおっさん二人を見つめることしかできなかった。
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