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三人の父親候補
話は通夜の日まで遡る。
当日会場入口前に立っていた私たちの元に、突如三人のおっさんがやって来た。
『実は君のお父さんなんだ』
三人は揃いも揃ってそう言った。こんな時にそんな冗談やめてくれよと笑いそうになったが場が場なだけにそれもできず、何の因果か母の火葬が終わるまで行動を共にする羽目となった。
一人目は千葉旭。既婚子ありの国家公務員、歳は五十四なので母の三つ上だ。聞くと大学時代の先輩だそうで、二十年くらい前一時的だが不倫関係にあったとのこと。確か二十五歳くらいの娘がいると聞いているが……一見真面目で誠実そうに見えるのに男ってのはよく分からない生き物だ。
二人目は長野朔。四十九歳独身イベント会社社長、元は母が勤めていた会社の二期後輩だそうだ。聞くと二十代の頃から結構長くお付き合いしていたらしく、当時の母の写真を名刺入れに忍ばせていたのを思い出す。ちょっとばかり母を美化しすぎている、というかどんだけ未練がましいんだという気もする。
三人目は神戸鷹。五十一歳自由業、一見セクシー男優みたいな名前だが見た目は全然違う。彼は今や伝説となっているロックバンドのドラマーで、音楽プロデューサーとしてそれなりに名の知れた有名人だ。コイツはコイツで母のヒモだった時代があるらしく、私が二歳か三歳くらいまでの間一緒に暮らしていたというではないか。全く記憶に無いし写真も残っていないのだが。
いずれにせよ母は私を身ごもってシングルマザーとして生きる選択をした。その時お前ら何してたんだ? 千葉さんは修羅場だったっぽいな、嘘吐くの下手そうだから。長野さんはアレか? ちょうど経営してた企業がヤベェって感じだったのか? なら神戸さんは? ヒモしてた時期があって一番近くにいたはずのこの男は何故身を固めようとしなかったのか? まぁ結婚は向いてなさそうだが。
葬儀の途中叔母は頭痛を発症させてしまい、リョウが看病に徹していた分三人にかなり助けられたのは事実だ。それに関しては感謝しているが、このタイミングで父親候補に名乗り出たのは何故なのか? 結局バタバタしたまま葬儀を終えたので未だ叔母には聞けていないのだが、少し落ち着いてくるともしやという思いがよぎる。
母が亡くなって結構なお金が入った。仕事中の事故だったので勤め先から損害賠償金を受け取り、まぁまぁ大口な生命保険を掛けていたようで変な話学費も余裕で支払える額である。ひょっとしてコレ狙いか? と思って探偵に依頼し、身辺調査をしてもらったがそれを疑うような証拠は出てこなかった。
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