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「お口に合いますと良いのですが……」
重い足取りで優子の傍らまで来ると、彼はまるでランクの高いレストランの給仕のように。背筋を伸ばした姿勢のままで、食事を乗せたトレイを、テーブルの上、優子のすぐ目の前に置いた。
トレイの上には浅めの皿に入った暖かそうなスープと、もう一つの皿ではじゅうじゅうと焼きたての音が聞こえてきそうな牛肉が、付け合せの野菜と共に盛り付けられていた。その美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、優子はつい顔が綻んでしまいそうになり。慌てて唇をぎゅっと噛み締めた。駄目よ、こんなことじゃ……!
「それではまず、スープからどうぞ」
彼は右手にスプーンを持つと、浅い皿からクリーミーな黄色い液体をすくいあげ。優しく、ふうっと息を吹きかけた後、優子の前に差し出した。
「熱いですから、気をつけて」
口のすぐ前に差し出されたスプーンに、優子は自分の顔を近づけた。それは彼がこの部屋に入って来てから、優子が起こした始めての能動的な行動だった。熱いスープは程よい暖かさに冷めており、優子はそれを満足げにすすった。うん、美味しい……。
「いかがでしょう。ご満足頂けましたでしょうか?」
スープの心地よい温かさとその美味しさに、思わず笑みが漏れてしまったのだろう、彼自身も満足そうな笑顔でそう聞いてきた。ダメだ、こんなことで気を許しては! 優子はすぐに固い表情を作り、そのまま言葉を発することなく。テーブルに置かれた肉の皿に向けて、あごをくいっと動かした。
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