この世に、二人だけ

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「それでは、お肉を召し上がり下さい。スパイスが効いていて、いいお味になっていると思います」  彼はスプーンを置き、今度はフォークを取り上げ。少しの肉片に突き刺すと、肉汁をこぼさないよう左手をフォークの下に添え、先ほどのスープと同じように優子の口元へと差し出した。さっきスープを飲んだ時、優子が満足そうな笑みを浮かべたので、ちょっと自信がついたのだろう。彼の眼には、これも美味しいはずだという、確信に満ちたような光が宿っていた。  優子はそれに気づかないふりをしながら、再び顔をフォークに近づけ、肉を頬張った。途端に口の中に、なんとも言えない味わいが広がる。肉自体も堅過ぎず、柔らか過ぎず。それは優子の理想とする感触と言えた。しかし、それをそのまま口に出すことは出来ない。そんなことで「彼」を満足させてはいけない……!  優子は十分に味わった後、ごくりと肉を飲み込み。意味ありげに頷きつつ、彼が部屋に入って来てから、初めての言葉を口にした。 「まあまあ、ね」  彼はその言葉に、ちょっとばかりがっかりしたようであったが。それでも、最初にスープを飲んだ時の感触が良かったからだろう、いつもよりは嬉しそうに、その後も優子に食事を与え続けた。  一通り食事を終えた後、彼はナプキンで優子の口元を拭い。食後のコーヒーの用意を始めた。今回は、少し甘さが出ちゃったかしら……優子はそう考えていた。  こうやって自分の好みに合わせて、色々と研究を重ねてもいるのだろう、正直に言えば大満足と言っていい食事を作ってくれて、そして慇懃無礼とも言える自分の態度に苛立ちも見せない。つい、気持ちを許してしまいそうになるのだが、そういうわけにはいかない。そうはいかないのよ、どうしても……!
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