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彼は優子の右脇に近寄り、再び「失礼します」と囁くと、優子の体をそっと持ち上げた。まず彼が自分の左手を、優子の切断された左腕の脇に差し込む。肩のところで切断されたのではなく、数センチほどは腕の部分が残っているので、そこに彼の腕を挟み込むような形で。
次に、右手を腰の下に持ってくる。いわゆる「お姫様だっこ」のように足を持ち上げる事は出来ないので、腰を持って抱えなければならない。手足がない分だけ軽いとはいえ、この体勢で持ち上げるのはなかなか難しいのではないか、と優子はいつも思った。
「う、んっ……!」
彼は力を込める時に、ちょっとだけ声を漏らし。優子を抱えあげ、イスの後ろにあるベッドへと運び、清潔でピンと張ったシーツの上に、優子を横たえた。その後、二人の間に、わずかに沈黙が流れた。
「それでは……」
彼はベッドから離れ、部屋の入り口脇にある電気のスイッチをパチンと消した。途端に、部屋が暗闇に包まれる。しかし、彼が部屋から出て行く気配はない。彼は電気を消した後、暗い部屋の中を、もう一度優子がいるベッドのところに戻ってきた。そして。
「失礼します」
食事の時とも、優子を持ち上げた時ともまったく違う口調で、彼は囁いた。それまでよりも、優子の耳元近くで。そのまま彼は、優子のすぐ横に、自分の体を横たえた。優子は暗闇で、何も見えないことがわかっていながら、ゆっくりと目を閉じた。
すう……
まず、彼の右手が、優子の髪を軽くまさぐり。それから手は左の肩へと降り、左腕の切断面を避けるように、わき腹へと手を滑らせ。そしてそこからは、手の方向を逆に滑らせた。手が滑っていった先には、優子の左の乳房があった。彼の手はそのまま服の上から、優子の乳房を優しく愛撫し始めた。そう、これが毎日の、そして一日の最後の「日課」だった。
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