この世に、二人だけ

8/15
前へ
/15ページ
次へ
 そして、数十分後――「行為」を終えた彼は、ゆっくりと立ち上がり。部屋の電気を消したままで、あらかじめ用意していた濡れタオルを取り上げ。優子が体にかいた汗を、優しく、丁寧に拭き始めた。優子は少し荒い息をつきながら、タオルの冷たい感触を心地よく感じていた。そんな優子を見て、闇に目が慣れて来たのだろう、優子の表情がかすかにわかったのかもしれない。彼は、優子の体を拭きながら、そっと囁いた。 「今夜は、ご満足頂けましたでしょうか……?」  その言葉を聞いて、優子ははっと我に帰った。いつの間にか、感じるままに、彼を受け入れていた自分に気がついたのだ。優子はぷいっと彼から目を背けた。でも、それはことによっては、「照れ隠し」みたいな印象を与えたかもしれない。 「それでは……」  彼はそれ以上何も言わず、何も聞こうとせず。服を着て、部屋から出て行った。出て行く間際に、一言だけ「お休みなさいませ」と言い残して。  彼が出て行った後。優子は、激しい自己嫌悪に襲われた。今夜の私はいったい何? 快楽に溺れて、彼をあんなに素直に受け入れてしまうなんて! 優子が嫌がったり抵抗したりすれば、彼は行為を途中でやめたし、それでも行為が「最後まで」達したことは何回かあったが、それも優子にしてみれば、こんな体だしやむを得ず……みたいな印象を与えていたはずだった。  それが、今夜は……! きっと彼は、優子が自分を受け入れた、自分を「許してくれた」かのように感じた事だろう。ダメよ、こんなことじゃダメだわ! もっと、もっと彼を憎まなければ。憎んでも憎み足りないくらい、憎み続けなければ……!
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加