この世に、二人だけ

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 こうして次の日の朝食から、優子の態度は一変した。運ばれた食事が熱すぎる、もしくは冷たすぎる。あるいはとても食べられたもんじゃないと、口に入れるそばから吐き捨てた。彼が丁寧に時間をかけて作ったであろう料理を全て否定し、あえてインスタントの食事をもう一度作らせ。こっちの方がよっぽどマシよ、と大袈裟に呟いてみせた。  彼はそんな優子の態度に、最初はどうしてなんだ、何があったんだ? と驚き。そして時間が経つに連れ、明らかに失望したという表情に変わっていった。昨日の食事は、かなり満足してもらったはずなのに。そして、あんなに満ち足りた夜を過ごしたはずだったのに……。  彼には優子の豹変振りが、理解出来ないようだった。そしてそれは、少しずつ苛立ちに変わっていったように見えた。夕食の時、相変わらず料理を吐き捨てる優子に対し。彼はしゃがみこみ、床に吐かれた料理を片付けながら、ほんの小さな声で「ちっ……!」と呟いたのだった。  その時優子は少しだけ、やり過ぎたかしら? と思ったが。すぐに思い直した。やり過ぎる、なんていうことはない。これで当然なんだ。私が彼を素直に受け入れるなんていうことは、あってはならないんだ……! しかし優子は、それがやはり「やり過ぎ」であったのだと、すぐに気づかされることになった。  優子が態度を豹変させた、次の朝。いつもにも増して、丁寧に、そして良く言えば彼にとって最高の、悪く言えば媚びへつらうような笑顔で朝食を運んできた「彼」だったが。優子は、その食欲をそそりそうないい匂いに負けじと、昨日よりも更に激しく、口に含んだ料理を吐き捨てた。 「食べられたもんじゃないわ、こんなの!」  すると。今までと、昨日までとまったく同じようにその吐き出された食べ物を片付けていた彼の手が、ピタリと止まった。
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