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「ひっ!」
突然背中になんか変な感触があって、俺は身を固くした。
「なにだと思って期待したの?」
驚いて見上げると、濡れたタオルを持った優哉が微笑みながら俺の背中を拭いていた。
「汗かいたし気持ち悪いでしょ?」
「ん……」
「シャワー浴びれないくらい疲れてるよね」
「ん……」
ふいに目に入った優哉の腕に、血の滲んだ爪の跡があってはっとする。
「それ、ごめん」
「え? ああ。いいよ」
きっと階段で俺が思いっきり握ってたせいだ。その傷に指で触れる。
「痛い?」
「痛くないよ、それに修一のかわいい顔たくさん見れたから、帳消しだね」
うう。
こいつは一体なんなんだ。
「さっ、前も拭いてあげたい所だけど、僕後夜祭出ないといけないから、行くよ」
「え?」
「寂しい?」
いや、そういうことじゃなくて。もうそんな時間なのか。
「少し眠るといいよ。戻ったら起こしてあげるから」
そう言いながら俺の髪をいじる手が心地いい。
「ん」
「じゃあまたね」
そう言って完璧な微笑みを浮かべると、俺にタオルを手渡して出て行く。
まじで予測のつかない人だ。
嫌な奴なのか、いい奴なのか分からない。全部に下心があると思えなくもないけど、当たり前のように優しかったりもするし。
子猫ちゃんたちが甘える術を身につけるように、あの人も優しい行いを身につけたんだろうか? そう思うと、なんだか悲しくなる。
なんで悲しいなんて思わなくちゃいけないんだ。
しんと静まりかえった部屋。広すぎるベッド。
『寂しい?』そんな優哉の声を思い出す。
俺はもらったタオルで体を簡単に拭うと、服を着てすぐに部屋を出た。
疲労困憊で、足下がおぼつかない。それに、今にもまぶたが落ちそうに眠い。
それでも、自分の部屋に帰りたかった。
寝込みを襲われるとか思ったんじゃない。
ただ、あの人にはこれ以上関わりたくないと思ったからだ。
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