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6
運転を男子に任せて車に揺られること一時間、ようやく青い海が見えてきた。太陽が高く昇るにつれて気温も上がり、絶好の海水浴日和に広い砂浜は人でごったがえしている。場所取りをしておくから先に着替えてこいよとミオとマリナは降ろされた。就職先は直前になって全員決まった。思いっきり羽を伸ばせるとあって男子たちは大張り切りだ。
更衣室にて水着になると、マリナが大きなビーチタオルを渡してきた。第一印象が肝心だから印象的にお披露目しようという魂胆らしい。言われた通りにタオルを羽織る。なんだかボクサーみたいだと思いながらマリナの後ろをついて行く。
人波をかき分け目印のビーチパラソルを見つけ出す。男子たちは早くもボールを膨らませたり焼きそばを食べたりしてくつろいでいた。しかしこちらが近づいているのを見つけた途端に色めきだった。視線はマリナに釘付けだ。
マリナはセクシーなワンピース水着だ。ライトブルーを基調としたハイビスカスの模様が爽やかでありおしゃれでもある。開いた胸元からは柔らかそうな谷間が覗く。まだ男子からは見えないだろうが後ろはほとんどトップレスに見えるほど大きく背中が露出している。「マリナちゃんエロ過ぎ!」、「美しい……」、「この令和のホルスタイン!」などと三バカ男子が思い思い賛美を送るのも無理からぬ。同姓のミオをもってしてもそのシルクのような素肌には嫉妬を覚えた。ユウタもパチパチ拍手をしている。
「ふふ、皆ありがとう」
とマリナは言った。「でもね、今日の主役は私じゃないの」
マリナがミオに目配せをした。ミオも頷いてそれに応えた。
そして身にまとったビーチタオルを放り投げた。
外気で体がふるりと震えた。夏の日差しを全身で受ける。そしてそれ以上に熱い視線が自身の体に注がれるのが感じられた。
ミオの水着は白いビキニと言う以外に形容できないくらいシンプルだった。健康的な肉体以上に魅力的なものはないというマリナの言葉を参考に、敢えて飾り気のない水着を選んだ。その思惑通り、男子の視線は水着ではなくミオの肉体へと注がれた。
「キレてる! ミオ、キレてるぞ!」
「強そう……」
「令和のジャンヌダルク!」
海で遊ぶ女子大生にはおよそ相応しくない感想が湧き上がる。もっと他に言うことがあるでしょとマリナが慌ててたしなめる。しかし当のミオは全く悪い気などしていなかった。
筋肉に頼りすぎたままだったならば容姿に触れられないことに多少の諦めを感じたのかもしれなかった。しかし今年は違う。引き締まった手足やうっすらと浮かぶシックスパック、程よい形と弾力のお尻、そして顔面。その全てが等しく誇らしい努力の結晶、筋繊維や肌細胞が確かに応えてくれた結果だった。恥ずかしがって隠していては筋肉とお肌に申し訳ない。もっと隅々まで見て欲しい、もっと他も見てみて欲しいと、ミオは様々なポージングを繰り出した。
ダブルバイセップス、サイドチェスト、サイドトライセップス、ボディビルダーの真似事をすると、男子は喜び、マリナは呆れた。「ナイスカット!」、「仕上がってるぞ!」、「もう止めて!」と、どんどんカオスな状況になる。更に悪ノリしてグラビアアイドルみたいなポーズを取ろうとしたとき、ユウタと視線が交錯した。
「前から思ってたんだけど、ミオちゃんってさ……、」
喧噪の中にあっても、その声ははっきりと耳に届いた。「最近、キレイになった?」
時間が止まったように思った。騒いでいたマリナや男子たちも驚いた顔で事の行く末を見守っている。ユウタだけがいつもの調子でニコニコしている。
ユウタは素直な性格で思ったことをそのまま言ってしまう節があるのは知っているし、正直な一言がどれほど周りに影響を与えるかを気にしないから質が悪いのも知っていた。だからミオの顔が赤くなったのも気温が高いからとしか思わないだろう。
しかしこの時ばかりは残念とも助かったとも思えなかった。ミオの脳はすっかり熱でやられてしまい冷静に思考ができなかった。熱暴走するかのように考え至ったのは照れ隠しの平手打ちだ。ご自慢の筋肉に物を言わせて右腕が勢いよく空を切る。手の平がユウタの腹を直撃すると乾いた音が辺りに響いた。
強すぎた、と後悔したのは大の字で倒れるユウタの姿を見たあとだった。
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