7

1/1
前へ
/7ページ
次へ

7

 幸いなことにユウタの命に別状はなかった。目を覚ましてからミオが必死に土下座をすると、ユウタはあっさりと許してくれた。お腹にくっきりとついた紅葉模様も、このあと一週間ほど残ることになるのだが、あまり気にしてはいないようだ。指先でなぞるとくすぐったそうに体をよじった。  ともあれミオたちはなんとか当初の予定通りに海水浴を満喫した。帰り際、ミオはユウタと二人で海に沈む夕日を見るという絶好のシチュエーションに遭遇するも、気絶させた負い目もあってとても告白などはできなかったし、オトすこともできなかった。しかし以前よりも親密になったのは確かだった。そうして学生最後の夏は終わりを告げた。  秋が来て、冬が来て、春が来た。研究と新生活に忙殺されて、ミオたちは悲しみに暮れる間もなく卒業することを余儀なくされた。また近いうちに会う約束だけは取り付けて、皆それぞれの道へと進んで行った。  社会生活が始まって二か月が過ぎた。まだ研修期間中だが、ミオはようやく新しい環境にも慣れてきていた。同期とのいさかいも上司からの説教も、以前ならばマリナと街を歩きまわってストレス解消ができたのだが、マリナだけは県外の会社へと就職したからそれはもう叶わない。その代わり毎日のように連絡をとった。これではいつかのリモートワークみたいだが流石にもう洗顔配信はしていない。お肌に気を配る習慣はもう完全に身についている。話の内容は主に流行とゴシップ、筋肉と美容、それからユウタをオトした後の相談だった。  マリナと連絡を取りながら、ミオはふと壁に貼った画用紙へと目をやった。カレンダーには赤いペンで『再会!』と書かれてあった。  社会人最初の夏はもうすぐだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加