止むことのない

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止むことのない

遠くの方で何かの音がする。 「…っ」 大瀬の瞼がぴくりと小さく痙攣したかと思うとぱちりぱちりと小さくその瞼は開閉した。 (えっと…) 脳も次第に動きを開始し始めたのか、鳴る音が近くである事を確認。 あぁ、そうだ。 (目覚まし…) ジャジャジャジャーンっ ジャジャジャジャーンっ (って…) 誰でも何処かで耳にした事のある強烈なこのイントロ。 (運命…) ベートーベン作曲の運命が流れている事に大瀬はようやく気付いた。よりによって、朝の爽やかな起床を呼び起こす目覚まし音が運命だったとは。 昨日アラーム音を選択していなかったのも悪いのだが、よりによってこの曲かと大瀬は枕に顔を埋め、ゴロリ寝返りを打ち、うーっと喉奥から小さい唸り声を出す。 そして、とっとと止めてしまおうと背後の音が鳴る方へと腕だけを伸ばした。 しかし。 「うるせー…」 「悪い…今止めるから…」 目覚まし音に対してだろう、不愉快そうな声が聞こえ、思わず大瀬は返事を返す。 ん? ジャジャジャジャーンっ アラーム音がリピートされる中、大瀬の眼が完全に開いた。 別に自分の寝言に返事を返した訳ではない。自分の声では無い声がしたのだ。 そう言えば…。 と、自分の背中に寝起きながらも全集中を向けさせた。 (暖かい…?) 恐る恐る背後を振り返る。 其処には。 「うるせー…って…今何時だと思ってんだ…」 「…いっ!!!?」 いいいいいいぃぃぃぃぃぃいいっ!!!? 人が居た。 ドゴッ!!! 「…うっ!!」 大瀬の部屋から鈍い音と共にくぐもった声。 「何してんだ、お前はぁ!!」 そして、怒髪天をつく叫び。 それもその筈。 大瀬のベッドに昨日の、あの勝手に部屋へと侵入してきた最初の男が寝ていたからだ。 昨日だけでは飽き足らず、今日も。しかもベッドにまで寝ている。 其の侭足で男の体を蹴り、ベッド下の床へと転がり落とした。 勿論落とされた方はたまったもんではない。 睡眠を運命で邪魔され、しかも体を蹴られ、挙句に床へと叩き落とされた状態。顔から落ち、額が痛むのか、痛ってー…と呻きながら床から体を起こした。 「いてーじゃねーよっ!何してんだ、お前は!!」 ベッドの上からもう一度大瀬が声を振り下ろし、ビシっと立ち上がると男を見下ろした。 「…普通蹴るか、転がり落とすか…?」 額を押さえる指の間からこちらを睨みつける眼が見えるが、それに気後れすることなく、大瀬も負けじと睨みつける。 「それはこっちの台詞だろーがっ!普通人のベッドで寝るかぁ!?お前此処の生徒だろう!自分の部屋はどうした!!」 (信じられんねーっつーのっ!!) まさか寝ている自分の部屋のベッドにまで侵入されるとは思わなかった。考えてみれば、昨日も勝手に扉を開けて入ってきたのだから、また入られるのも当然だったのかもしれないが、それでもこんな事になっていたとは。 脳を通っている血が毛細血管から毛根を突き破って、頭から吹き出そうだ。 しかし、ふわっと欠伸をし、悪びれた様子も無い男のその態度。 「煩せーんだよ、朝から…」 「何を偉そうにしてんだっ!!」 誰か、コイツに常識を教えてやって下さいっ!! 「大体日曜の朝に目覚ましが8時ってお前は年寄りか?しかも運命ってどんな嗜好してんだよ」 言いたい事はそれか? ピクリと大瀬の頬が引くついた。 ****** 「出せ」 右の掌を上にむけ、大瀬はずいっと男の顔の前に差し出す。 リビングにて、仁王立ちの大瀬とソファーに引き摺られてきた男。 端から見たら、何の関係だと問われそうな位に二人の温度さと美貌の違い。 「…何を?」 いきなり眼前へと掌を向けられ、男は少し眉を潜めながら、その手と大瀬を交互に見た。 「何をじゃねーよ。此処に入ってこれるって事はスペアキー持ってんだろ、出せ」 あんなに簡単に扉から入ってこれると言う事は、明らかに彼がスペアキーを持っているからだとやっと気付いた大瀬はそれを奪い取るべく、早く出せと急かす。 どうやってそのスペアを入手したのか、なんて思いもするが、それよりも。 これ以上部屋に好き勝手入ってもらう事等冗談じゃない。変な癖や趣味等は無いものの、ゆったりとしたい時に昨日みたいに大勢入って来られると流石に困る。 (…って…あれ?) そこまで考えて大瀬ははっと眼を開く。 目の前の男が1とすれば。 昨日二番目に入ってきた男が2。そして、あれから、3、4と男は入ってきた。 と、言う事はだ。 ガチャリ 「あ、やっぱり居た」 やっぱりだ。 昨日と同じ男、あれは確かと大瀬は脳内を巡り、彼が『3』の男だと思い出す。 近づいてきた3は、1の男へと近づき、大瀬へと小さく笑った。 スラリと身長が高く、大きめの眼は笑うと人好きする笑顔になる。そう、またもや美形なのだ。 類は友を呼ぶなんて言葉もあるが、顔も美形なら、行動も似通っているのか…。 しかし、なんて思っている大瀬ではない。 「丁度いいとこに」 「は?」 大瀬はニコリ笑うと1の男の傍に当たり前の様に座った新参者に向かって掌を突き出し、一言。 「お前も出せ」 全て回収してやる。
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