止むことのない

2/8
前へ
/165ページ
次へ
あはははははっ!!! 笑う声に大の眉がピクリと動く。 「何、お前。コイツのベッドで寝てた訳!?あははははっ!」 何がそんなにおかしいのか、3は腹を抱える様に笑いながら、1の背中をバシバシ叩き傑作だっ!と、涙まで出てきた眼を指で擦る。 「…笑い事じゃねーよ」 こっちはたまったもんじゃない。眼が覚めて赤の他人が隣に勝手に寝ていたなんて、どんな目覚ましよりも効果がある。 そう大瀬が刺々しく返せば、3の男はまぁまぁとやっと収まったのか、掌をひらりと振った。 「でも、コイツならOKって感じだろ?いや、良かったって感じになるだろ?」 何が? 3の男の指差す方には1の男。 はぁっと大瀬が歪んだ顔を向ける。 それに対し、3はえっと小さく声を上げると、グリっと1の男の顔を大瀬へと近づけた。 「お前よく見ろよ。この顔だぞ」 「だから?」 「いい男だろ。ちょっと中性的でさ」 「…だから?」 「………」 さっぱり意味が分からないと大瀬は益々顔を歪める。 確かに綺麗な顔ではあるが、男だ。自分と同じモノも着いている正真正銘の男だ。 これがかなりの魅惑のボディとやらを持った、大瀬の好きな絶賛売り出し中のグラビアアイドル桃花ちゃんなら、それはもう手放しで喜び転げまわり、窓から飛び出しても構わないであろうが、何が悲しくて男と共に朝を迎えなければならないのか。 「全く持って分からん」 フンっと鼻息も荒く短く切り捨てた。 「…あー…そう…」 「………」 そんな大瀬の態度に3の男はどことなく珍しいモノを見る様に大瀬を見詰め、1の男は少しだけ不愉快そうに目を細め、口を開く。 「俺だって、別にコイツと寝たかった訳じゃねーよ。ただいつも寝ている部屋があの部屋だったからだ」 不遜じみたその態度にまた大瀬の血管が音を立てる。 「あのなぁ!問題は其処じゃない!人の部屋に勝手に入るなって言ってんだよ。ホラ、さっさとスペア出せっ!お前もだっ!」 「えー…俺も?」 3が不満そうに大瀬を見るが、当たり前だと一喝すると、ホラっと手を2人へと差し出す。 「分かったよ」 「おっ」 意外とあっさりと言うか、素直にポケットからカードを出し、大瀬の掌に載せる1に大瀬が驚きの声を上げるが、それに続き3もその上からカードを置いた。 (何だ…素直じゃねーかよ) 掌に載ったカードを満足そうに確認すると大瀬はふっと笑う。 「有難うな」 礼を言うのもおかしな話だが、それでも大瀬は一応態度で示した二人へと言葉を伝えた。 と、言う訳でだ。 「はい、さよなら」 バタンっ 大瀬はニッコリと微笑み扉を閉めた。部屋に居た彼等を外へと追い出して。 最後に閉まる扉の隙間から2人の呆然とした顔が見えたが、そんな事関係無い。 パンパンっと両手を叩き、ふーっと息を吐くと大瀬はリビングへと戻り、カードを見詰めた。 (取り合えず2枚は回収っと…) あの2人から取り上げたとは言え、まだ残り2人が居る。 しかし、本当にこのカードはどうやって手に入れたのだろうかと今更だが疑問が浮かぶ。管理人から貰ったのだろうかとも思ったがそんなに簡単に渡しはしないだろうと思える。 (つーか…) アイツ等って何者? そう思いながら、大瀬はスペアのカードキーを部屋の引き出しへと直し入れた。 アラーム音がとっくに止まっていたスマホを開き、時間を確認。 デジタル時計が既に10時になろうとしているのに、大瀬はげっと小さい声を上げた。 時間が過ぎるのがこんなに早いと感じた事は無い。それ程に此処に来て色々な事があったのだろうと思うと何て密度の濃い時間だったのだろと思うが、それ程自分の身になった事は無いのも事実でじっとりと眉間が狭まる。 (あ…いかん。此処に来てから俺眉間に皺寄せてばっかりだ) 眉間をぐりぐりと親指で指圧。これをして、皺が無くなるのかと思うが、気分的には違うだろう。 それを終えると朝飯はどうなってるのだろうと、大瀬はソファへと座りパンフレットを開いた。 朝食:平日・7時~8時(不要の場合は連絡をする事) 休日・8時~10時。しかし昼食が11時からなので基本的に10時を過ぎても可。 「何だ、食べれるじゃん」 昨日は夕飯抜きだった為に腹もかなり減っていた。これで朝食まで間に合わなかったら泣きそうだったが、ラッキーと指を鳴らした。 善は急げと早速着替えようと部屋に入ろうとしたが。 ピンポーン… 「ん?」 インターホンの音なのか、部屋へと響き渡った音に大瀬は玄関へと眼を向けた。 (…誰か…来た?) もう一度音が鳴る。 矢張り誰かがこの部屋を訪ねて来たのだと、慌てて玄関の方へと小走りで向かう。 「はいはいっと!」 ちょっと待ってなと声を掛け、扉を開くと、そこには 「あ、あの…甲斐大瀬…君?」 紙袋を持った少年が立っていた。 「あ…そうだけど…何?」 此処の生徒だと言う事は容易に分かるが、自分に用があるのだろかと大瀬は首を傾げつつ、目の前の少年へと声を掛ける。 「あ、あのコレ。林原さんに頼まれて…制服だって」 すっと持っていた紙袋を差し出した。それを受け取り中を覗き見ると、きちんとされたシャツとブレザーやネクタイがきちんとビニールに包まれて入っていた。 「おぉ。有難う、コレ届けに来てくれたんだ?」 大瀬がにっと笑うと少年はううんと小さく首を横に振る。 「さっき、食堂の前通ったら林原さんがコレを君に渡しに行こうとしてて…それでその…実は僕この前の部屋なんだ。挨拶代わりも兼ねてと思ってきたんだけど…」 こじんまりとした体を余計に堅く縮ませ、しどろもどろに話すその姿に大瀬はそっかと呟く。 「俺、甲斐大瀬。一年。あんたは?」 きちんと自分に向き直り、そう名乗った大瀬を少年は少し目を見開き、しばらくして口を開いた。 「篠原…円(まどか)一年です」 「篠原円ね。うん、覚えた。この部屋の前に住んでるだな。宜しく」 「あ…こちらこそ宜しく…円って…お、女みたいな名前でしょ。体付きもこんなだし…嫌になる」 大瀬の笑顔に強張りも取れたのか、少し笑いながら、そう言う円にまた大瀬は笑う。 「何言ってんだよ。体なんてまだ成長期だろ。身長だって伸びるって。俺もまだまだ伸びる予定だし」 「そ、そうかな…」 嬉しそうに笑う円の笑顔はとても愛らしい。 女の子とまでは言わないけれど、柔らかい雰囲気にささくれ立っていた気持ちも多少落ち着くなと大瀬は癒しすら感じていた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1236人が本棚に入れています
本棚に追加