止むことのない

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あんなリストラ寸前駄目平社員がたかだか2日で課長昇進!? 辞令は明日からだろうが、どう見ても異例だろう。 しかし、家族揃って喜び、絶対に父親の好きなグラタン(茄子とひき肉のミート和え)を頬張っているだろうな、姿も思い浮かぶ。 大瀬はスマホごとベッドへと倒れ込んだ。 「どうしよ…」 振り返れば彼等には最初から出会ったものの、かなりの無礼を働いている。 (でも、ソレは…アイツ等が勝手にこの部屋に入ったりしたからで…) 自己防衛ないい訳を考えては見るものの、矢張り気は重くなる一方だ。 (あぁ…そうか…) 創立者の孫。だから、此処のスペアも簡単に手に入ったのかもしれないと、どうでもいい事を思いつく。 そう、どうでも…。 ―――ズシっ! 「ぐふっ!!」 急に仰向けになっていた身体に何かが乗ってきた様な重み。 (な、何っ!?) 混乱する頭がもっと混乱し、身体を強張らせた大瀬のスマホを握る手にそっと手が重なった。 いっ…!! 「おーせ?って言うんだ…名前」 耳元に声と共に暖かい息が拭き掛かるが、ひっと大瀬は悲鳴を飲み込んだ。 何!?何!? いや、 誰っ!? 恐る恐るやっと首だけを自分の背に乗る『何か』に向ける。 「昨日振り」 ニコリと笑うその顔に大瀬の眼が見る見る間に広がり、あわわと唇を振るわせた。 「4…」 「4?」 何だそれ?と首を傾げる男。 不法侵入者その4、朝倉立羽。 何を思ってか、大瀬の上に身体ごと乗りかかり、顔は鼻と鼻が付きそうな位近くに寄せていた。 「ちょ…!」 すっかり失念していた。 そうだ、部屋のスペアカードは後2枚あったのだ。 その内の一つを持つこの立羽。 けれど、まさかさっきまで食堂に居た者が此処に来るとは思わなかった大瀬は本気で驚き、声まで出ない。 少し長めの前髪を左へと流し、その隙間から切れ目長の眼がチラリと見える。 「な、なななな何で…」 やっと出てきた声は無様にも震えて、まともな発音にはなっていない。 「何でって?」 「何で、この部屋に居るのかって聞いてんだよぉ!」 「カードで」 分かってるわぃっ!! もう入ってくる術は分かっている。学食に居た立羽が何故此処に居るのかと聞いているのだが、それはどうやら相手には通じていない。 頭を抱えたい気持ちでいっぱいだが、それよりも。 「ぐふ…っ!ちょ、…お前ど…けっ!」 未だ自分の上にいる立羽。 はっきり言って重い。全身が乗っていると言う事は、全体重が大瀬の上に乗っていると言う事だ。流石に苦しくなってきたのか、小さく掌でベッドを叩いた。 「おかしいな…大体のヤツは俺に押し倒されたら嬉しそうなのに」 「馬鹿か、お前っ!押し潰してんだよっ!」 行動と言葉を合わせろぉ!! ぎりぎりと歯軋りする大瀬だが。 (ん?) 心底不思議そうな顔をする立羽をもう一度振り返る。 (押し倒されたら嬉しい?) 何で? 呆けた侭に自分を見詰める大瀬に立羽はん?と優しく眼を細めた。 そんな空気の中。 「立羽、もういいだろ」 違う声が大瀬の自室に響いた。 「は…?」 「残念。もっとおーせと遊びたかったけど」 ふっと大瀬の上から重みが無くなると、立羽がベッドの上から降りたのが分かり、大瀬はそれを眼で追う。 そして、視線は声のした部屋の入り口に。 そこには。 「よぉ。おーせ?」 「お前…等…」 侵入者1、2、3。 朝倉揚羽、小燕、白。 ズラリと揃い踏みしている中にひょいっと立羽も並ぶ。 (…つか、) 何時からいたのだろう。 立羽も彼等も。 一気に身体の熱が奪われる感覚に大瀬は少しだけ身を震わせた。
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