その選択肢が責任を伴うとは思わない

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(取り敢えず…) 「…ホラじいさん、バナナ食うか?」 7時回った時間帯の公園には既に人影等無く、昼間は子供が散々遊んだであろうブランコに少年と老人がキコキコ鳴らしながらバナナを貪っている。 (何だ…この絵面…) 近所の高校へと通う普通の男子高校生の少年、名前は甲斐大瀬(かいおおせ)。 そんな大瀬はパクリとバナナを食べながら、隣の老人を盗み見る。 自分と同じ様にバナナを食べるこの老人。 先程大瀬が帰り道でもある橋の上で手摺から身を乗り出していたのだ。その場に居たのは大瀬だけだったのもあり、しばらくその光景に身を固くしてしまっていた大瀬だが、此方を向いた老人が、よっと手摺に足を掛け出したのには流石に眼を見開かせた。 『ちょっ!じぃさんっ!待てっ!早まるなぁああああああ!!』 『煩いわぁいっ!ワシはもう死ぬんじゃぁああいっ!』 『何言ってんだよっ!どうした、年金だけじゃ足りないのか?ばあさんに先立たれたのかっ!?あ、あれか?息子の嫁さんとソリが合わないとか、孫が家庭内暴力かぁ!?』 『何をぉ!?この小童がぁ!ワシはそんなに落ちぶれてはおらんぞぃ!』 いきなり手摺の上から地面へと見事に着地した老人に胸を張られ、そう言われてしまったのだ。そして何故かその後こうして、公園で2人バナナを貪る羽目に。 (つか…何だ、このじーさん…) はぁっと溜め息が出るものの、こんな時間にこうしていても仕方が無いのも確か。 ボケている訳でもないようだし、よく見れば着ている着物も羽織も中々質は良いものらしい。素人目から見てもそう分かるのだから、結構な家に住んでるのだろう。 「じいさんさ、それ食ったら家に帰れよな。家の人だって心配してんじゃねーの。俺だってそんなに遅くまでは…」 いられないし。 と、続けようとしたが急にクルリと自分を振り返った老人に大瀬はビクっと肩を跳ね上がらせた。 「童、お前年は幾つだ?」 もぐもぐと二本目のバナナに当たり前の様に手を伸ばす老人がそう大瀬へと問いかける。 (俺のバナナ…いや…いいけどさ) 「俺…15だけど…。9月に誕生日がくれば16だけどさ」 「名は?」 「甲斐大瀬…」 「ふむ…」 (何?) 自分の年と名前を聞いてきたかと思えば、今度は何かを考える様に黙りこくった老人に大瀬も訝しげに見返すが、老人は15か…と小さく呟きながら3本目のバナナを口へ放る。 (…俺帰ってもいい気がする…) 何よりもう時間も時間だ。 「じいさん、もう俺帰るぜ。あんたも早いとこ家族に連絡を」 「よし、大瀬。お前さんに頼みがある」 とれよな。 と、続く筈だった言葉もまた見事に遮られた。 「は?」 頼み? たかだか30分前に知り合っただけの赤の他人の自分へといきなりのお願いを申し出た老人へ大瀬の目がクリンっと見開かれる。 そんな大瀬を老人はブランコから降りると真正面へと立ち、上から下へと眺める様に…と、言うか観察する様に見ると、眉を垂れ下げ一言。
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