天災と人災、どちらも一緒

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文字通りこの道を真っ直ぐに進んで来た大瀬だったが。 「遠い…」 「ご苦労様だったなぁ!」 はははっと高らかに笑う目の前の人物を大瀬は疲れ切った顔で見上げた。 年は40代位だろうか。 身長は大瀬と同じ位で少し古っぽいスーツを着たこの男。 手入れされた髭を手で触りながら、ニヤっと笑う顔はクシャリと皺が刻まれる。 どことなく愛嬌のある顔立ちだ。 「俺はお前の担任の大久保だ。宜しくな。甲斐大瀬」 すっと伸ばした手に大瀬も自分の手を絡ませれば、ブンブンと上下に振られた。 (パワフル…) 20分掛けてやっと門の前に着いた時にそこで待っていた大久保。 どうやら大瀬の案内人として学校側が用意してくれていた様だ。大瀬を見るなり、ずんずんと近づき疲れた顔をした大瀬を盛大に笑って出迎えてくれた。 「お前の荷物は全部寮へと届いてるからな。安心していいぞ。さて、じゃあ案内してやる」 「はぁ…ども」 見た目は少し無気力さを感じる大久保だが、こうやって口を開いてみるとハッキリした口調に大きな声。笑い声にもハリがある。 人は見かけじゃ無いなとこっそり思ったのは秘密にしておこうと大瀬は肩を竦めた。 「しかし、こんな時期に転校なんて。珍しいな」 大瀬の隣を歩きながら、そう疑問を飛ばす大久保は大瀬をチラリと見る。 『そんなん俺が好きでしたんじゃないっつーの。変なじじいが現れて蝶を捕まえろっ!だの言って来て、放り投げ出されたんだよ』 と、言ってやれたらどんなに気持ちが良いだろうか。 なんて、大瀬は思う。 しかし、そんな馬鹿な事を言う程大瀬も大馬鹿では無い。 中の中は中らしく物事を考えてはいるのだ。 「親の都合です」 コレに限る。 この一言で子供には非が無いと思わせられるだろう。 大瀬自身に問題があって、この学園へと転入せざる得なかった、等思われたくは無い。 「へぇ…そっか」 納得はしたのか、していないのか分からない所ではあるが、一応大久保は短い返事を返した。 (うぉお…) 華泉学園(かせんがくえん)。 創立2年と言う新しいだけあって、校舎は外装も内装も白く美しい。漆黒風の壁は高級感と上品さを生み出し、廊下も下手したらツルっと滑ってしまいそうな程にピカピカと光沢を放っている。 (踏んで歩いて…いいんだろうか…) 「此処が靴箱な。月曜日は職員室に寄ってくれ。此処から真っ直ぐに突き進めば職員室だから」 手短な説明に大瀬もパンフ片手にふんふんと頷く。 それを満足そうに大久保が見詰め、さて次!っと先を急いだ。 グランドを横目に見遣れば、部活動だろう。走りこみをしている者もいれば、サッカーの試合をしている者、それぞれトレーニング等をしているのが見えた。 学生らしく爽やかな汗を纏い、皆と力を合わせて笑い合い、青春真っ盛りなこの光景。 けれどもだ。 それも気にはなったけれど、この光景を見て大瀬の中で気になった事が一つ。 「男しか居ねー…」 ボソリ… 「は?」 大瀬の一言に大久保がぎょっと眼を見開いた。 そのリアクションに大瀬も何?と視線を合わせるが、大久保もええ?ともう一度大瀬をマジマジ見詰めた。 「いや、うちは確かに共学と言う名はついてるけど…」 男子校舎と女子校舎は限りなく離れてるぞ。 「え?」 今度は大瀬の眼が大きく見開かれた。 「と、言うかもうこの学校…華泉は男子校と女子校で別れてる感じだな…」 ええええええっ!! 「マジ…でっ?聞いてねーっ!」 流石に大瀬もピシっと体を固まらせるが、心はぼろぼろと無残に崩れ去るビジョンが浮かんだ。 (嘘…っ!!) 男子しか居ない。 それはすなわち… ムサ苦しい。 暑苦しい。 汗臭いっ!! 別に彼女が欲しいっ!とがっついている訳では無かったが、それでも周りを360度回っても男しか眼に入らない等とてもじゃないが、耐えられない。 今まで居た学校は共学だった。 華やかな学校生活だったとは言い難かったが、やっぱり女子が居ると言うだけで中々良かったと今なら思える。 「…マジかよ…」 ガクリと肩を落とした大瀬に大久保ははて?と首を傾げながら、それを見詰めた。 「…何だお前。自分が来る学校なのにそんな事も知らなかったのか?」 「…いや…親の都合ってのも救急なモンだったんで…」 (狸じじいめ…) せめて必要最低限な事は言ってもらいたかったとこめかみに青筋を立てるが今更だ。 「ま、此処も慣れたら楽しいもんだからさ」 (慣れる…ねぇ…) 大久保にポンっと慰められる様に肩を叩かれ、大瀬は先を促された。 寮へ行く迄大久保はそこの説明をしてくれた。全寮制では無く、理由があるものだけが寮生活をしているとか、部屋は2~3人でシェアな形だとか、夕食の時間について。風呂の事だとか。 ふんふんと頷き、大瀬もそれをきちんと聞く。 一つでも聞き過ごして、下手な事はしたくはない。 「買い物は外に出たらすぐにコンビニだのあるから。外出届けが一々いるけど、まぁちゃんとしてくれよ」 「うぃっす」 生徒が何かすれば、担任も一蓮托生な事になってしまうと言う事は分かる。 大瀬の色よい返事に大久保はくしゃりとした笑顔を見せた。 他愛も無い話を咲かせて歩く事10分。 「ほら、お迎えだ」 「え?」 すっと大久保の指差す方に大きなグレイの建物と共に玄関らしき場所に人が一人立っていた。 こちらに気付くとこれまた大久保同様元気に大きく手を振る姿。 「こっち、こっちぃ!」 「あれ、管理人だ。こっから先の寮は彼から聞くといい」 じゃ頑張れよ、と大瀬の背中をバシっと気合注入と言わんばかりに叩くと大久保は今来た道を帰っていった。 「有難う御座いましたっ」 遅れながらもそう礼を言う大瀬にひらひら手を振って。
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