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「わかってはいたんだけど、今日も雨かよ」
東京を半分だけ見渡せる窓際のカウンター席で、カンパリのロックを飲みながら後藤はため息をついた。
冷えすぎたワインを掌で温めながら稀は同じ様に外を見ていた。
「どうせ明日もでしょ」
「明日の晴れはどこなんだ?」
「えー?どれどれ、待ってねぇ」
スマホで天気予報を開く。後藤曰く『病みランク』のサイトだ。
「明日も世田谷区ね」
「そうか。いい加減、気象庁にウイルスでも送りつけてやれよな、誰かがよ」
「そう考えるからまた明日も雨になるのよ」
稀はワインを少しだけ口に運んだ。
気象をコントロールする気象庁のスーパーコンピューターがAIに掌握されてから、東京都の天気を決める方式は一新された。
『犯罪の計画、実行または思い浮かべるなどの行為に及ぶ者についてこれをポイント化し、そのポイントが一番少ない、すなわち犯罪率の少ない市および区のみを晴れとする』
人々はAIの暴走と呼び、これを阻止しようと気象庁へ及んだが誰も近づけ無かった。
「AIは暴走なんてしないけどな」と後藤は何度も言い続けてきた。
「人間にとって気に食わないことをAIがしたからそう思っているだけさ。AIは人間が暴走したと考えているだろうな、絶対」
気象庁のAIは外部とのアクセスを完全に遮断した。警察や自衛隊が官舎に近づこうとすると、千代田区全体が一時間に500mlという大雨に見舞われ、皇居のお堀が氾濫し経済的な大打撃を受けた。
「AIにとって経済はただの現象だ。大規模災害に備えて原子力電池なんか設置したから永久に俺たちを弄ぶぞ」
「気に食わないから弄ばれていると思っているんでしょ?AIはそうは思っていないわよ、絶対」
「ふん」
後藤はカンパリを飲み干すとウェイターを呼んだ。
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