爆発的に急上昇

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爆発的に急上昇

 何が爆発的に急上昇しているかというと、子供の数である。最初は、童子――男の子が三人、姫――女の子が一人だった。  配偶者は、妻と夫。そして、説明が長くなるので省くが、の私が一人の三人で夫婦だった。そんな家族構成で、七、八年やってきたが、ある日夫――(れん)が、知らない男の人を連れてきたのである。  その男は、私に挨拶もなしに、こう言ったのだ。  明日、あなたと結婚します――。  そうそうなことで驚く私ではないが、一瞬、化石みたいに固まった。だがすぐに、ショートした思考回路は復活して、ピンと(ひら)いてしまった。  うちの夫ときたら、男の人と結婚するなんて――バイセクシャルだったのか。  ついでため息が出たが、私は知らない男の人をまじまじと見つめた。というか、霊視した。  紺の肩よりも長い髪はしなやかに緩いカーブを描いて背中へと落ちている。神経質な顔立ちとが中性的な雰囲気を(かも)し出す。そして、もう一度さっきの声をリピートした。  明日、あなたと結婚します――。  こんな言葉はないが、遊線(ゆうせん)螺旋(らせん)を描く――どこか(もてあそ)ぶような優雅で芯のある声色。今まで教えてもらっていた神様名簿の中から、すぐさま該当者が浮かんだ。なぜなら、私が十五年も前から想い続けていた人――いや、神――光命(ひかりのみこと)だからだ。  もちろん、私は惰性で蓮と結婚したわけでなく、光命のことはもう忘れかけていた。  神世では結婚の規制がない。陛下には妻が何人もいる――いわゆる、ハーレム。一般人がしてはいけないという縛りはない。  だがしかし、光命は十四年ほど前に、最愛のパートナーができたと、風の噂で聞いた。その時、私は玉砕したのだ。死後の世界は――永遠の楽園だ。愛に出会えば、それは未来永劫で――別れは決してこない。  光命が彼女と結婚するのも間近だろう。運命でも何でもなかったのだ――人間がよく起こしがちな、いっときの気の迷いだ。偽物の愛。  蓮と光命のことは、それなりに知っている。最初に恋に落ちたのは、蓮だな。蓮は人を見るときに、性別関係なく、尊敬に値するかを重視する。女のご機嫌うかがいなど絶対にしない、俺様である。  光命が人間の私に振り向く可能性は微塵もなかった。一体、いつどこで私のことを知ったのやら? いや――そんなことよりも、自分の夫が、私の想い人を愛するとは、まさしく事実は小説よりも奇なりだ。  ということで、細かいことを書くと、何週間もかかるからすっ飛ばして、私は光命に問いかけた。 「それじゃ、光命さんの奥さんとも結婚するんですね?」 「いいえ、私は彼女とは結婚していませんよ」  確認しなかったばかりに、十五年間も勘違いしたままだった。光命は大人の世界を満喫するのが楽しいのかもしれないな。だから、恋人同士のままだったのかもしれない。  結婚式も無事、翌日に終わった。我が子の百叡(びゃくえい)は、光命のところへ以前からピアノを習いに行っていたそうだ。彼は小さいながらも、強く願った。  先生が、パパだったらいいなあ――。  その夢がかない、百叡は毎日大はしゃぎだった。夫婦四人と、の私一人。新しい結婚生活がスタートした。だがしかし、二週間もたたないうちに、また知らない男の人が私のそばにやって来て、  お前と結婚する――  どなた様ですかっ!? 私は決して気が多い女ではない! 他に好きな人はもういないぞ。  パチパチとパソコンのキーボードを打つ手を止めて、画面から視線をそらし、男の顔をじっと見つめた。またまた神様名簿を開く。これは少し難しい。もう一度今の声をリピートする。  お前と結婚する――  地鳴りのような低い声と落ち着き。そこで、頭の中で電球がピカンとついたように閃いた。  夕霧命(ゆうぎりのみこと)だ。光命の従兄弟(いとこ)で、光命といえば夕霧命。夕霧命といえば光命。性質はまるで違うのに、錠前と鍵みたいにピタリとくる相手。そこで、また閃いた。  光命が結婚しなかったのは、彼女の――知礼(しるれ)を愛しながらも、夕霧命も愛してしまったからだ。光命はルールはルールの几帳面で律儀な人で、誠実でありたいがために、結婚しなかった。  同性を愛する。  複数の人を愛する。  神に(ゆる)されないことだと、光命は悩みながらも、真実の愛という渦に飲み込まれて、必死でもがき、海面へ出てまた落ちてゆくを繰り返した、十四年間だったのかもしれない。私にもいろいろあった月日だったが、神である彼もまた順風満帆ではなかったようだ。  そうやって、誰かが結婚すると、実は他に好きな人がいて――というように、どんどん増えていき、の私を入れた、夫婦二十一人となっていた。  配偶者を軽く紹介をしておこう。  倫礼(りんれい)、ファンタジー作家  (れん)、R&Bの人気アーティスト  知礼(しるれ)、ノンフィクション作家  光命(ひかりのみこと)、作曲家であり、有名なピアニスト  覚師(かくし)、小学校の歴史教師  夕霧命(ゆうぎりのみこと)、武道家(合気(あいき)無住心剣流(むじゅうしんけんりゅう)  莎理(ざんり)、小学校の国語教師  焉貴(これたか)、高校の数学教師  楽主(らくす)、小学校の算数教師  月命(るなすのみこと)、小学校の歴史教師  紅朱凛(あしゅりゃん)、塾講師の補佐  孔明(こうめい)、私塾の講師  皇閃(すめひら)、小学校の算数教師  明引呼(あきひこ)、酪農企業の社長  花梨輪(かりわん)、小学校の理科教師  貴増参(たかふみ)、国家公務員  陽和師(ひおし)、小学校の算数教師  独健(どっけん)、国家公務員  (りあん)、小学校の家庭科(裁縫)教師  張飛(ちょうひ)、小学校の体育教師    そして、私――颯茄(りょうか)、ヴォーカリスト、ギャグファンタジー作家。以上、二十一名だ。  明智家に来る前に、八組は結婚していたので、子供がそれぞれいた。それに加えて、このバイセクシャルの複数婚という、新たな境地で子供たちは次々と生まれ、今では百五十二人――三桁になっている。  覚えられないのだ。肉体である脳には、という機能がある。他の配偶者は肉体がないから誰も忘れないのだが、しっかりしていないと、どの子供と話しているのかわからなくなるのだ。  だが、賑やかな毎日でとても幸せだ。これはきっと、神様の神様が与えてくださった慈悲だろう。感謝である。  ただ最後に、これだけは言いたい。プロポーズされたとかではなく、事後報告を受けて結婚するばかりで、人間の私の人権は、神である彼らの間では効力はなく、勝手に結婚して配偶者は増えていったのである。これは絶対服従――壮大なパワハラと言わずして何と言おうか。  2020年6月18日、木曜日  追伸――  今さらながら、及川 光博さんの『懺悔』を聞きながら、椅子に座ったまま、器用に踊っている。  
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