「お父さんが」

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俺のずっと望んでいた生活が、遂に始まるのか。 でもやっと叶ったのに、それは思っていたのとは随分と違っていた。望んだのはこんなのじゃない。 あふれてきた思いは柔らかな空気に溶けて、消えた。 「じゃあ、今日何か食べに行くか?」 「えっ? いいの?」 俺の呟きに、妻は声を弾ませて、体を真っ直ぐに起こした。 「どこに行きたい?」 「んーっと、そうね……」 ウキウキしながら頭の中を巡らせる彼女に思わず噴き出してしまった。 「あっ、でも大智は焼肉が良いって言うかしらね」 結局は、子供の好みの食べ物になりそうな予感がする。 引き落としたヘソクリは、今日食事に行った後また口座に入れておこう。歩き出した二人のために、取っておこう。 心に空いた後悔の穴は、今から埋めていこう。 まだ、遅くはないさ。 必要なものがあれば、「お父さんが」買ってやるし、孫だって預かってやる。 カーテンが揺れる。その向こうから通りを歩く女の子たちの笑い声が聞こえてきた。 〈完〉
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