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「ただ今ー」
サッカー部の活動を終えて帰ってきた大智の声が、静まり返ったリビングに響いた。今年で中学二年生。あの時の智菜とほぼ変わらない年に成長していた。
ドスドスと28センチの足で騒々しく歩いてくる。何も知らない息子は部屋の戸を開けた。
「あ? 何」
漂う異様な空気に気づいて、大智は素っ頓狂な声を上げた。妻が立ち上がり、大智を追い出しながら自分も外に出る。扉の向こうでコソコソと事情を説明している。
母親という味方を失い、智菜は決まり悪そうに俯いた。隣に座るのはヒョロヒョロした身長ばかりある男。身につけたスーツにむしろ着られていた。
智菜は30歳。この男は25歳。
先程真っ青な顔で勇気を振り絞って「智菜さんを僕にください」と頭を下げてきた。
「お父さん、誠一さんはいつも本当に私のこと考えてくれてるの」
唐突に智菜が顔を上げた。
俺を責めるような目つきは相変わらずだ。その物言いにカチンときた。俺とこのヒョロヒョロを秤にかけて、まるで俺が智菜のことを考えてこなかったような、責められているような気持ちになった。
「仕事のことが気に入らないの? 私だって働くし、今の時代は一人じゃ生計立てるのは無理よ」
智菜が弁護する。
彼氏はパートタイムで働きながら、絵を描いているのだという。
大学の講師から「才能がある」とお墨付きをもらったそうだ。
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