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「スパークリングワインはどうかな?」
今度はイケオジさん(仮)がグラスとボトルを持ってきた。これも我が家にはないはずの物。
お洒落なレストランに来たような気分になるけど、やっぱり自宅。
私の返事を待たずにおじさまはグラスにスパークリングワインを注いだ。
「乾杯」
「か、乾杯……」
向かいに座る彼がグラスを掲げて、それに倣ってしまうのは反射的なもの。
グラスが軽くぶつかって音を立てて、彼は口をつける。この人、結構マイペースなのかもしれない。
私も口に運ぼうとするけど……いや、本当に私は何で流されそうになってるんだろう?
「えっと、あの、どちら様ですか……?」
遂に聞いてしまった。聞くのは怖かったけど、聞かなきゃいけないと思った。
ぴたっと空気が止まったような気がする。急に静かになって怖い。
だって、私は全然知らない。今日は特別な日でも何でもない。お金要求されたりとかないよね……?
「確かに挨拶をしないのは失礼だったね。私は洞口慶次、こういう者だ」
差し出される名刺を受け取って頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。入りきらないぐらい。
だって、この会社名聞いたことある……
「洞口さん……?」
「どうか名前で呼んでほしい」
その人は笑顔を浮かべているけれど、名刺に書かれてることが確かなら相手は大企業の社長様だ。私にはご縁のないはずの人種。
不審者じゃない? ううん、この状況に説明がつかない。早く説明してほしいのに、にこにこと笑みを浮かべて何かを待たれてる感。つまり、そういうことか。
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