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A Day Of Hell's Gate
つい、若さに嫉妬した?
イライラしていたからしょうがない?
単純な、同意するのも難しすぎる言い訳は通用しないぐらい、あなただって長く生きてここにきたのだから、分かるはずでしょうに。
それとも、罪悪感より自分を押し通すほうが大事ですか?
ああ、なんで驚いた顔しているかわかりますよ。
最近、自ら命を絶つ方が多いらしく、地獄の獄卒だけでは到底抱えられるものではない、ならば亡者を雇用してスタッフとして働いてもらい、それを功徳として罰の代償に補填するという法案が可決されたんです。
当初、古参の獄卒や亡者は反対しましたが、業務量があまりにも多すぎて、立ち行かなくなったんですよ。
こうして帷子姿で働くというのも、なんだか妙な感覚ですが、腹もすかないし休みはもらえる、それにシフトもきちんと組まれており残業もないというホワイトな環境ですよ。
それに、楽しみもありますからね。
さんざん僕を脅して金をまきあげてきた、かつてのいじめっこ。
浮気して、逆ギレして去っていった元カノ。
手柄を横取りして昇進した同期に、そっちへついていった後輩。
今日は、僕を見下して、時には手をあげて、蹴ることまでして自分が被害者だと偽って男と逃げた、昔の女房。
娘は、あの子どうしているんです?
金欲しさに、あなたが営む飲み屋に来る客に差し出したこともあるそうで、ええ、ちゃんとこちらの経歴書に書いてありますよ。現世の罪状が細かく書かれた罪状経歴書にね。
彼らの一人と、娘はあなたを捨てて家を出たそうじゃないですか。
気に入っていた、金持ちの男と。
悔しくて、口惜しくて、ずるいと思ってあなたは娘を駅の階段から突き落とし、娘を亡くした哀れな母親という芝居まで演じて同情に酔った。
まるで、娘が好きだったミルフィーユみたいに罪を重ねてきて、今更仕方がないだの、命乞いなどされても私にはききませんよ。
え?
経歴書を見せて欲しい?
申し訳ないですね。
機密文書なので、お見せできません。
ずっと見たかったと思っていましたよ、あなたが絶望した顔を。
私も娘もずいぶん、振り回されましたから。
これが私にとって、最後の業務になります。ずるいなどと叫んで、経歴書に記載事項を増やすことになっても知りませんよ?ようやく、生まれ変わる準備ができたそうで、おかげさまで明日から赤子からやり直しです。
謝るから、かわってくれなんて……寝言にもほどがありますね。
では、こちらへお越しください。
どうぞ、地獄の入り口へ。
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