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「もし、危ない輩が来たら、全力で僕やロウが守るから安心してくれていいよ。こう見えて、僕、割りと強い妖怪って言われているからね」
「……名前を探ったり、人を椅子に縛り付けたり出来ますもんね」
「そうそう。あれくらいの妖術なら、寝てても使えるよ」
九条は手でキツネの形を作りながら、言った。
「で、どうする? 明日から、来てくれるかな?」
「……考えさせて下さい」
「そこは、ノリよく「いいとも!」って言ってよぉ」
「著作権が心配ですね」
優太はソファから降りると、九条から渡された紙袋を片手に、立ち上がった。
「まぁ、気が向いたらきてね。ウチはいつでも歓迎だから」
「……」
優太はそれには答えずに、すぐそばにあったドアを開けた。
部屋はバーの奥にある休憩室だったようで、扉の向こう側はバーのカウンター内だった。
カウンターを潜り抜け、外に出るともうすっかり朝になっていた。
スマホを取り出して時計を見ると、時刻は午前六時を回っていた。
ということは、九条は残業をしてまで優太のことを見てくれていたみたいだ。
優太は振り返り、バーを見た。
正直、昨夜からの一連の出来事はあまりにも突拍子すぎて、信じられなかった。
でも、いくら優太が信じたくないと思っても、ここには確かにバーがあって、そしてその中には九条という名の九尾の狐もいた。
否定したくても否定できない程の、紛れもない事実がそこには、あった。
「……仕事始めは、二十時……だったっけ」
優太は沢山寝てスッキリとした体をしながらポソリと呟いた。
こんなに寝たのも、朝を晴れやかだと思うのも、随分と久しぶりのことだった。
──もう一眠り、しておくか。
優太はそんなことを思いながら帰路についた。
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