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──いくら、あやかしによる、あやかしの為のあやかしのバーだからと言って、こんな普通の商社っぽいビルの間にあるのに、俺以外の人間が来ないなんてこと、あるか……?
その疑問には、九条が何てことないことのように答えてくれた。
「霊感が強い人以外にはバーは見えないんだよ。隣のビルの人とかは、ここをただの空き地だと思っているだろうね」
「じゃあ、俺って……」
「物凄い霊感の持ち主って事だね」
九条はそう言ったけれど、優太には自分が霊感が強かった覚えなどなかった。
幽霊なんて一度も見たことがないし、もしあったとしたらここで九尾の狐と狼男を見たからって気絶したりなんてしない。
それでも、このバーに来ることができた。
──まさか、俺、引きこもりの間に霊感が強くなった……とか!?
だとしたら、引きこもりの思わぬ副作用だ。
全国の引きこもってる人に気を付けた方がいいと呼び掛ける必要があるのかも知れない。
「それにしても、ユタくん仕事早いねぇ」
九条がグラスを拭きながら優太の仕事っぷりを見て言った。
「カウンターもピカピカだし、細かいことにも気がつくし。本当に接客業、やったことないの?」
「あ……はい」
優太は自分が磨きあげたカウンターを見た。確かにピカピカだ。
それを見て、優太は「あ」と思った。
「……デスク拭きなら、したことがありますけど」
「デスク拭き?」
九条が優太にそう尋ねたところで、チリンチリンと音を立てて扉が開いた。
時計を見ると、まだ二十時半。開店までまだ三十分もある。
「すみません、まだ準備中で……」
九条がすぐにそう、声を掛ける。
しかし、それは途中で阻まれてしまった。
「ユタくん、伏せて!」
九条の言葉に俺は咄嗟にしゃがんだ。その刹那、何かが頭上を通り抜けていく。
壁にぶつかり、ガシャンと音を立てて壊れたそれは、瓢箪だった。
──何故、瓢箪が……。
優太のその疑問に答えるように、恐らくその瓢箪を投げたであろう人物が
「うるっせぇなー! 別にいいだろうがよ!」
と喚きながら店の中に入ってきた。
──って、えぇ!?
優太はその人物を見て、瞠目した。
身長は百四十センチくらい。髪は赤いけれど、その前髪の間から覗く顔はどこからどう見ても子供だった。
九条も同じことを思ったのか、九条は
「すみません、ウチはバーだから……未成年は、ちょっと」と言った。
それに、子供がぶちギレた。
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