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「だぁれが未成年だごら! 俺は酒呑童子様だ!! お前らみたいな只人が気軽に話しかけていいモンじゃねぇんだよ!」
酒呑童子と名乗ったその子供はそう言うと、カウンターの一番端の席に座った……というより、よじ登った。
優太は本当に人間なのでさておき、九条のことも引っくるめて「只人」と言った辺り、酒呑童子にはこのバーが普通のバーに見えているようだ。
優太はコッソリ九条の側に行くと、小さな声で
「酒呑童子って、妖怪なんですか」と聞いた。
「僕と争えるくらいの力を持ってる、貴重なあやかしだよ」
「え、でも……」
それなら、何故九条の正体に気づかないのか。
優太のそんな疑問は、酒呑童子の
「おい! 何喋ってんだ! 酒出せ! 酒!!」
という怒鳴り声で何処かに追いやられてしまった。
「開店前なんだけど……仕方ないなぁ。今回は特別だからね」
九条はそう言うと、日本酒を取り出して酒呑童子の前に置いた。
酒呑童子はそれの蓋を開けたかと思うと、コップに注がずに豪快にラッパ飲みし始めた。
「ははは、豪快だねぇ」
「うるせぇ! くっちゃべってる暇があったらもっと持ってこい!!」
酒呑童子、という名前なだけあって相当な酒のみらしい。
「あははっ、今日は開店するまでもなく酒が尽きちゃうかもねぇ」
「いいんですか、九条さん……」
「お金さえ払ってくれれば無問題☆」
そんなことを言っていると、九条と優太の間を何かが猛スピードで通り抜けていった。
「何喋ってんだよ! さっさと次持ってこんかぁ!!」
「……あと、暴れさえしなければね」
九条と優太の間を通り抜けていったのは、またもや瓢箪だった。
酒呑童子は機嫌が悪いと瓢箪を投げてくる性質があるらしい、と優太は心にメモをした。
「酒呑童子はね、鬼なんだよ」
九条が酒呑童子に酒を提供しながら、小声で優太に言った。
「鬼……」
「そう、鬼。証拠に、頭に小さいけれど角があるだろう?」
酒呑童子を見ると九条の言う通り、赤い髪の間から小さいけれど角が二本、覗いていた。
「だから、力はあるけど妖力とかはない。だから僕の正体にも気づかないんだよ」
「そうなんですか……」
「にしても、昔はもっと大きかったんだけどねぇ。なんでこんな子供の姿をしているのか……」
「おい! 酒!!」
また、瓢箪が飛んできた。
それでも優太や九条に瓢箪が当たらないところからすると、酒呑童子は二人に当てるつもりはないようだ。
コントロールが信じられないくらい悪いだけのかもしれないけれど。
「あぁ、ごめんね。それにしても、君」
九条はカウンターの下から酒を取り出しながら、酒呑童子に話しかけた。
「君言うな! 酒呑童子様だっ!」
「はいはい。で、シュテンドウジサマは、何でそんなにイラついてるの?」
九条のその一言に、酒呑童子は一瞬だけピタリと動きを止めた、ような気がした。
しかし、何事もなかったかのように九条が持っていた日本酒を奪い取ると「もっと酒!」と言った。
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