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「もう日本酒なくなっちゃったから、次は焼酎になるけど……」
「酒なら何でもいい!」
優太は、そんな風に喚き散らす酒呑童子が気になって仕方がなかった。
──気のせいかもしれないけど、さっきの止まった感じ。もしかして、酒呑童子には何かあるんじゃ……?
「酒ぇぇ!!」
「ハイスピードだなぁ」
「いいから、酒!!!」
優太は酒呑童子の側に歩み寄ると、「あの……」と言った。
「んだぁ? 只人が!!」
「あまり、飲まれると身体に良くないですよ」
優太がそう言うと、酒呑童子は耳をピクッと動かした。
「あぁ? 只人の癖に俺様に指図してくんのか? おん?」
「いえ、そういうわけでは……」
「只人の言うことなんざ信じられねぇ! 黙ってろ!」
酒呑童子がバンッ! とカウンターを叩く。しかしそれでも優太は引き下がらなかった。
「……酒呑童子……様、は何か人間に恨みでもあるんですか?」
「あ? 何言ってんだ、てめぇ?」
「先程、俺に対して信じられないと言いました。なので、信じられなくなる何かがあるのではないかと思いまして……」
酒呑童子の動きが、完全に止まった。その代わりに、物凄い目付きで優太を睨み付けてきた。
正直に言えば怖かった。だけど、優太は目を逸らさなかった。
「てめぇには、関係ねぇだろ」
「しかし、俺は只人です。人に対する恨みがあるのなら、俺が聞きます」
空気が張りつめる。
九条は冷戦状態の二人を止めることもなく、静かに見守っていた。
「……裏切り者なんだよ、人間ってのはぁ」
やがて、酒呑童子が口を開いた。
「裏切り……」
「俺ら鬼は、確かに悪さはするが、謀ったり裏切ったりはしねぇ。それなのに、人間は……っ!」
酒呑童子は焼酎を一気飲みすると、ボトルを無造作に置いた。
「源頼光の事かい?」
九条が不意に口を挟んできた。
「……そうだ。あいつは俺に酒を飲ませ、身の上話をして、信じさせて……。俺は信じていたんだ! それなのに……っ!」
酒呑童子の焼酎のボトルを持つ手が、震えていた。優太はその手に、優しく触れた。
「……おいお前、何触って、」
「……分かりますよ」
「あ?」
「その裏切られた気持ち、分かります」
優太は酒呑童子の目を真っ直ぐに見た。
さっきまで怖かったはずなのに、話を聞いた今では酒呑童子のその突き放すような視線も、突っぱねようとする態度も、優太には悲しいものに見えた。
「俺も、裏切られましたから……」
「……どういうことだ?」
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