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優太は、ポツリポツリと話始めた。
「俺、ここに来る前はニートで……でもその前は、サラリーマンをやっていました。大学の頃からの友達だった奴と一緒に入った、小さな会社で」
「……」
「俺、こう見えて営業とか得意で、営業成績は常にトップに入ってました」
気がつけば、酒呑童子は酒を飲むのもやめて、優太の話を聞いていた。
さっきの話で「身の上話を聞いて」などと言っていたが、もしかしたら酒呑童子は元来、人の話をよく聞く、いい鬼だったのかもしれない。
それなのに、裏切られた。
その心の痛みは、計り知れないものだっただろう。
「上司からはよく褒められていました。でも、それをよく思わないやつもいました。特に、一緒に入った大学の友達は、俺の事を邪魔だと思っていたみたいで……」
──吐き気がする。
優太にとって、最悪で、最低な思い出。それでも、酒呑童子に話したい、と思った。
同じ傷を持つものとして。
「やがて、嫌がらせが始まりました。大事な書類を隠されたり、商談の話で嘘を教えられたり……俺の営業成績は、瞬く間に落ちていきました」
「……お前、」
「最初、誰がやっているのか分かりませんでした。でも、ある日友達が俺の書類を燃やしているところを偶然、見かけてしまったんです。それで問い詰めたら、それまでの事も全部、友達の仕業でした……」
酒呑童子が優太が触れていた手を退けた。その代わりに、今度は酒呑童子が優太の手の上に自らの手を乗せた。
やっぱり、酒呑童子は……。
「凄く、仲がいい奴だったのに。親友だって言っていたのに。俺の事、応援してるって言ってくれてたのに……裏切られました」
「信じられねぇよな、そういうの」
「本当に……っ」
優太は言葉に詰まった。
知らず知らずのうちに溢れだした涙が、優太の邪魔をした。それでも、酒呑童子はただ静かに、優太の言葉を待ってくれていた。
「すみませ……っ、俺、お客様の前なのに……っ」
「気にすんな。……それで仕事を辞めたのか?」
酒呑童子は、優しい鬼なのだ。
「いえ……その事を上司に進言したんですが、全く信じてくれませんでした。お前の責任だと言って……俺には、雑用をさせるようになって……でも、それすらも、友達が邪魔をしてきて……」
「最低だな」
「ある日、課長の机から、大事なメモリーカードが無くなって、それを、課長のデスク拭きをしていた俺のせいにされて……っ。俺は、結局、クビになりました」
優太がそう言うと、酒呑童子は「はっ」と笑った。
「クビを切られるとか、俺と一緒じゃねぇか」
「酒呑童子様も、首を?」
「あぁ。それでも鬼だからな。生きることは出来たが、姿を戻すために力を使ったらご覧の通り、子供の姿になっちまった」
こう見えても昔は三メートルくらい身長があったんだぜ、と酒呑童子は笑って言った。
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