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「俺、踏み潰されちゃいますね」
「お前を潰すくらいなら、このほくそ笑んでる気持ち悪いバーテンダーを踏み潰すぜ」
そう言いながら酒呑童子が指差した九条は、何故かニヤニヤと笑っていた。
「何で笑ってるんですか、九条さん」
「いやぁ、ユタくんをスカウトしてやっぱり正解だったなぁと思って」
九条がそう言うと、酒呑童子が優太を見た。
「お前、ユタと言うのか」
「正確には、優太です」
「優太……ユタでいいか」
「いやだから、何でそうなるんですか」
別にいいですけど、と優太が言うと、酒呑童子がニヤリと笑って、
「天だ」
と言った。
「え?」
「俺様の名前。天って呼んでくれ」
「え……でも、いいんですか? 俺、只人なのに……」
優太が酒呑童子……ではなく、天にそう言うと、天は豪快に笑った。
「そうだな。俺様からすればユタは只人だし、裏切った源頼光とおんなじだ。でもな……」
天は椅子からピョンと降りると、ユタを見上げた。
「お前の事なら、信じてもいいかなって思えたんだよ」
天がそう、照れ臭そうに笑ったところで、チリンチリンと音を立てて扉が開いた。
優太と天が一緒に振り向き、九条が「いらっしゃい」と声を掛ける。
「あ? 何か今日は客が多いな……」
やって来たのは、ロウだった。
そういえば、月が出ているのにロウは来ても大丈夫なのだろうか、なんて呑気に優太が思っていると、天が突然「狼男!?」と叫んだ。
「んぁ? 何だ、この子供?」
「子供じゃねぇ! 俺様は酒呑童子様だっ! つーか、狼男が何でこんな人間のとこに?!」
「何でって……そりゃあ、ここはそういうバーだからな」
「だろ?」と狼が九条に尋ねると、九条はあっさりと「そうだよ」と言った。
「でも、ユタは人間だって……!」
「ユタくんはね。というか、最後まで気づかないということは、僕の勝ちだね。天くん?」
九条はそう言うなり、優太が最初に見たときと同じように、耳と尻尾を出した。
「コンッ」
「きゅ、九尾の狐だと!?」
「せーかーい」
九条が手でキツネをしながら言うと、天は「くそっ」と言った。
「見破れねぇなんて、俺様としたことが……」
「気配を隠してたからねぇ」
「にしても、それなら何でユタがこんなバケモンだらけのところに?」
「あー……それは……」
優太は説明をしようとした。だが、その前に天が優太を見つめ、「……あぁ、そういうことか」と言った。
「事情は察した。ユタも大変だろうが、頑張れよ」
「え、どういうこ……」
「九尾の狐がいるのはちと問題アリだが……また、お前に会いに来るとしよう。今日は飲みすぎたから帰る」
天はそう言うと、さっさと九条が言った金額を支払って、「またな。久しぶりに旨い酒が呑めたぜ」と言って去っていってしまった。
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