case.2 酒呑童子

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「……嵐のような人だったなぁ」  優太がぽつりと呟くと、九条が「ぶふっ」と笑った。 「何で笑うんです?」 「いやいや、ユタくん。あれは人じゃないから! 鬼だから!」 「そこ、取り上げちゃいます?」 「僕を人間と言うくらい、違和感あるよ」  九条は尻尾と耳をしまいながら言った。  尻尾と耳さえなければ、九条は普通に人間に見えてしまう姿をしている。  ロウにしたって変身しなければ普通の人だし、天も言われなければただの人……というより、子供だ。  ──あやかしと人間って、案外曖昧なんだなぁ。  もし仮に、人の中にあやかしが紛れていたとしても分からないだろうな、と優太は思った。 「にしても、お前、なんちゅう格好してんだよ!」 「へ?」  突然のロウの笑い声に優太の意識は思考から現実へと引き戻された。 「あぁ、ユタくんはねぇ、ここのバーで働くことになったんだよ。だから、いじめないであげてね」 「ちっげぇよ! バーテン服の由来は何となくわかる! でも、何でちょんまげなんだよぉ!!」  狼は優太を見ながら、腹を抱えてゲラゲラと笑った。  笑ってくれるのは充分なのだけれども、いくらなんでも遠慮なく笑いすぎだ。 「……九条さん、昨日、狼男さんに出していた、あの黄色いお酒は何というものなんですか」 「あぁ、あれはエル・プレジデンテっていうカクテルでね……」  優太の思惑を読み取ったのか、九条「これと、これと」とエル・ブレジデンテに使うお酒を取り出し始めた。  ロウはそれを見るなり、慌て出した。 「おい待て! えーっと、ユタっつったか!?」 「優太です」 「ゆう……ユタでいいやっ! 笑って悪かった! だからやめてくれ!!」  ──……何故、あやかしは人の名前を省略したがるんだろう……。  優太はそう疑問に思いながらも、止めてあげようと「九条さん」とエル(略)の支度を着々と進める九条に声を掛けた。  しかし。 「やめてあげてもいいけど、ユタくんへの教育もあるからねー。一旦、オオカミになってよ、ロウ」 「嫌だわ!」  優太の制止もロウの叫びも虚しく、ロウの前に九条お手製エ(略)が置かれた。 「一瞬なんですね」 「コツは、ロウの方に少しグラスを傾ける事だよ。そうすることによって、ロウから見たときにより丸くなるからね」 「コツとか言ってんなよ、クソガキャア!!」  狼男に変身したロウが全身の毛を逆立てて怒りを表した。  それに対して優太は、昨夜気絶してしまったがためにしっかりと見ていなかったロウの姿に感嘆の声を漏らした。 「昨日見たときは恐怖しかなかったですけど、改めて見たら凄いですね……!」 「何感心してんだ! ユタ!! いいからさっさと戻せ!」 「人間からしたら珍しいもんねー、狼おっさん」
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