156人が本棚に入れています
本棚に追加
「おっさんじゃねぇよ!!」
「まーまー、そうギャンギャン騒がないの。ユタくん、丁度いいからロウの戻し方も教えておくね」
九条はそう言うなり、カウンターの下から「銀」と書かれたボトルを取り出して、ロウの前に置いた。
それを見たロウは、一瞬にして人間の姿に戻った。
「……って、ええ!? 銀って、そういゔ銀゙ですか!?」
「いや、普通は銀製品を見せないと戻らないはずなんだよ。でも、この゙銀゙でも効くことが、最近分かったんだよ」
「へー、お手軽ですねぇ」
「お手軽じゃねぇよ! これ、案外疲れるんだよ!!」
その言葉を体言するように、ロウは肩で息をし、ダラダラと汗を掻いていた。本当に疲れるようだ。
九条はそれを気に留める……はずもなく、
「いいお勉強になったね、ユタくん」
と笑った。
「そうですね……えっと……」
優太はロウの事を何て呼ぶか決めあぐねた。
そういえばロウの名字を知らないことに、今更ながら気がつく。
「そういえば、挨拶がまだだったな。剛力ロウだ。ロウでいいぜ」
それに気付いたのか、ロウが自ら名乗ってくれた。昨夜の優太の顔色といい、ロウは見た目に反して、小さな事にも気が付く人のようだ。
「ロウさん」
「おぅ。よろしくな」
そう言いながら、ロウが右手を差し出して来てくれる。優太は迷わずにその手を取った。見た目通りの、がっしりとした手だった。
「よろしくお願いします」
「九条になんかされたら直ぐ俺に言えよ?」
ロウがそう言うと、九条が「やだなぁ」と手を振った。
「僕がロウ以外に何かするワケないでしょー」
「おい、俺にもやめろよ」
「やだよ。ロウを弄るのが僕の生き甲斐なんだから」
「てめぇ、いつかその尻尾引きちぎって、ただの狐にしてやるからな!」
「やだー、助けてユタくーん」
二人のやり取りに、優太は思わず声を出して笑った。
それに九条とロウが嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「……よし! 何か色々あったけど、落ち着いたところでユタ君の歓迎会でもしようか」
「お、そりゃいいな!」
「じゃあ早速始めちゃおう」
九条はそう言うなり、カウンターの後ろにあったシャンパンを開け始めた。
「え、ちょっ、お仕事は……?」
「んなもん気にすんな。どうせ客は来ねぇよ」
「えぇぇ……」
「ロウの奢りだから、売り上げは出るしね」
「そうそう……って、金取んのかよ!」
「当然じゃん?」
「ふざけんな!!」
また、ロウと九条が揉め始める。
そんな二人の姿を見て、優太はまた、声を上げて笑った──……。
case2:酒呑童子 終
最初のコメントを投稿しよう!