case.3 淫魔

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「もう! この店の名前がどうなっても知りませんからね!」 「大丈夫、大丈夫。基本的に来るのはロウと天くんと……」  と、そこまで言ったところで九条は言葉を切った。 「……と、何ですか?」  気になって訊ねてみると、 「いや、何でもないよ。気にしないで」 と言われてしまった。  そんな風に何かを言い掛けてやめる九条を、優太は初めて見た。  九条は、いつも笑っていて顔色を伺おうとしても、正直何を考えているか分からない。だけど、何でも開けっ広げにペラペラと喋ってしまうタイプだ。  どれくらいかと言うと、大事な金庫の暗証番号を入って間もない優太に簡単に教えてしまうほどで、その危機感のなさは心配になるレベルだ。  少しは天を見習っていただきたい。  しかもそれは優太に対してだけではないようで、知らぬ間にロウや天に優太のあらゆる情報(例えば、住所とか。個人情報が過ぎる)が流れてしまっているのは日常茶飯事だ。  その(・・)九条が言い淀むと言うことは、恐らくこの話の先には余程話したくない事があるのだろう。  だから本当なら先を促すべきでないのかも知れない。けれど、優太としては少しでも多く、事前情報を手に入れておきたいところだった。  優太は九条に申し訳ないと思いながらも、 「他にも常連さんがいるなら、事前に教えておいて頂きたいです」 と言った。  それに、九条が困ったような表情を浮かべた。いつも余裕綽々な表情を浮かべている九条がこんな顔をするのもまた、優太にとっては珍しいことだった。 「あー、うん……まぁそうだよね。ていっても、あれは常連っていうか……腐れ縁って言うか……」 「腐れ縁……ですか」 「正直、もう来ないなら来てほしくないね」  優太はその言葉に驚いた。  天の事件の後、自分勝手に話をしてしまったことを謝った優太に 「いや、お陰でお客さんが増えたよ。だから問題ナッシング☆」 などと言っていた九条が腐れ縁の相手とは言え、お客さんに対して「来てほしくない」なんて言うなんて……。 「……一周回って、会ってみたくなってきましたね。その方に」  優太が思わずそう呟くと、九条ばかりか、ロウまで血相を変えて立ち上がった。 「ユタ! あいつには絶対に会わない方がいいぞ!!」 「そうだよ、ユタくん! 絶対にやめといた方がいい!! 君の為にも!!」 「えぇぇ……」  優太は困惑した。二人揃って止めに来るなんて、一体、どれだけヤバイお客さんなのだろうか……。  そう思っていることを優太が伝えると、 「思い出しただけで悪寒が止まらなくなるよ」 「あいつが来ただけでこの店は悲鳴で満ち溢れる」 「悲鳴というか、阿鼻叫喚と言った方が正しいかもね」 と教えてくれた。
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