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「何ですか、そのバケモノ!?」
「あ、それ。強ち間違ってないよ」
「冗談で言ったのに……!?」
「あれは正しくバケモノだな」
ロウも腕を組み、うんうんと頷き、そして
「……なーんて言ってると来るんだよな、あいつ」
とぼそりと呟いた。
それに、九条がイヤイヤと首を振った。
「やめてよ、ロウ。そんな不吉な事言うの……っ」
「不吉って……」
九条の言い様に優太が苦笑いを浮かべたところで、店の扉が激しく開け放たれた。
「九条チャ~ン! ロウチャァァ~ァン!来たわよ~♡」
いつもは静かに鳴るベルが「ヂリンヂリンヂリン!!」と悲鳴を上げるように激しく鳴ったのと同時に、そんな甲高い声が店内に響き渡った。
「噂をすれば何とやらぁぁ!!」
そして、それと同時に九条が悲鳴を上げながらカウンターの端っこまで逃亡し、ロウはけたたましい音を立てて椅子から転げ落ちた。
一方、優太はというと、その入ってきた人物の容姿に圧倒されて、その場から動くことが出来なかった。
ロウ並みにガタイのいい身体に、角刈りにされた金色の髪。ただでさえ目立つ赤色のエナメルシャツは白いパンツによってより強調されており、しかもシャツの胸元からは胸毛がはみ出していた。
ここまでは完全に男性で、まぁ……派手ではあるがおかしな点はない。
それでも優太が固まってしまったのは、その顔にケバケバしいド派手メイクが施されていたからだ。それに、声も男性にしては甲高いし、歩き方も超内股だ。
──……これは。
男性と言っていいのか、女性と言えばいいのか分からない……!
早い話が、優太は混乱していた。
「あらぁ、噂してくれてたのぉ? う・れ・し・い♡」
その間にも、その男せ──いや、女性……ではない、おネエさん? はカウンターを乗り越えんばかりの勢いで九条に迫っていた。
「うぁぁぁ! やめてっ! 悪霊退散ッ!!」
「アタシ、悪霊なんかじゃないわよ~ただの、お・ネ・エ♡」
「おネエ退散んんっ!!」
九条は訳の分からないことを言いながら逃げ惑い、ついには優太の後ろに隠れた。
すると、おネエさんは一瞬、動きをピタリと止めた。
──お、収ま……っ
「あらやだ、新人さん!? かぁわぁい~い~♡」
──てなぁぁあい!!
おネエさんはターゲットを九条から優太に切り替えたらしく、優太に向かって手を伸ばしてきた。
「く、九条さぁぁぁん!」
化粧バリバリの男性寄りのおネエさんの猛攻に、優太は九条に助けを求めた。
しかし、九条はここぞとばかりに厨房のドアの影に隠れ、出てこなかった。
「ユタくん……生き延びなよ」
「そんな、捕まったら死ぬみたいな言い方しないでくださいーっ!!」
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