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「まぁ、あのインキュバスは、インキュバスらしくないけどね」
優太のそんな想いを汲み取ったのか、九条がおネエさんを見ながら言った。
すると、
「ちょっとぉ、どこがよ!」
頭の痛みが引いたのか、おネエさんが顔を上げ、九条に反論した。
「アタシは男の子も女の子も好きなの。普通のインキュバスは女の子以外はダメだけど、アタシは男の子でも大丈夫なの」
「……つまり、何が言いたいのかな?」
「アタシは最強のインキュバスなのよ!」
おネエさんはそう言うと、誇らしげに天井に向かって指を指した。
しかし、九条の
「……他の人は知らないけどさ、僕らに対しては色仕掛け出来てないよ?」
の一言に、しおしおと手を下ろした。
「ふ、二人が特殊なのよ……」
「正確には、四人になったけどね」
九条はそう言いながら、棚からタンブラーグラス(背の高いグラス)と何かのティーパック、そしてカウンター後ろのショーケースからウォッカを取り出した。
「ええっ!? そんなことないわよね、新人ちゃん!?」
おネエさんが縋るような目で優太を見た。
優太は、それに答えることが出来なかった。
「坊やもそう思うわよね!?」
優太の援護を諦めたらしいおネエさんは、次いで天を見た。
それに天は、いつものように「坊やじゃねぇ!!」と怒った。
「あらぁ~粋がっちゃって、かーわーいーい~!!」
しかし、それは逆効果だった!
完全復活を果たしたらしいおネエさんは、天の方に向かってズカズカと歩き出した。
「お、おい! やめさせろ! 九尾狐!!」
天が慌てて九条に助けを求めた。
まさか、こんな光景を見るときが来るなんて、誰が想像しただろうか……。
出会って数分しか経っていないが、優太にはおネエさんが最強のあやかしに見えた。
「はいはい。今からお酒作るから席についてねー」
流石の九条も天の初めてのお願いを無下にできるはずもなく、素直に止めに入った。
「えー、だって~」
「今回も失恋話聞いてあげるから、席について」
ウォッカをグラスに注ぎながら、九条はう言った。
いきなり何「失恋の話」とか失礼なことを言っているのだろうと優太は思ったが、おネエさんの反応は違った。
ピタリと動きを止め、九条を見、そして
「……よく分かったわね」と言った。
「一色さんが来るのは大抵そう言うときだって、ロウが言ってたからね」
「ねえ、ロウ?」と九条がロウを見ると、「まぁ、そうだな」とロウが頷いた。
──……あれ、この三人って、もしかして……。
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