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気付いたら、優太は見知らぬ路地にいた。
ここは何処だろう、と振り返ると、そこには先程まで歩いていたはずの大通りがあった。
どうやら、気づかぬうちにうっかり間違えて曲がってしまったらしい。
──いや、いくらなんでもぼうっとしすぎだろ、俺。
優太はあまりにも酷い自分に苦笑いを溢し、戻ろうと踵を返した。
その時だった。
その店が、目に入ったのは。
「……こんなとこに、店なんてあったっけ?」
ビルが立ち並んでいるだけの何もない細い路地の、ビルとビルの隙間。
そこに、小さな煉瓦造りの店があった。
正確には店名が一切出ていなかったから、優太には本当に店なのかどうなのか判断が出来なかった。
それでも店だ、と思ったのは小さなスポットライトが濃い緑色の木製ドアを煌々と照らしていたからというのと、そのドアに「open」という小さな看板が掛けられていたからだ。
優太はまるで惹かれるようにしてそのドアの前に立ち、何の躊躇もせずにドアノブを引いた。チリンチリン、とベルが鳴る。
「いらっしゃい」
小さなL字カウンターがあるだけの、とても小さな店だった。
そのカウンターの中に立っているバーテンダーの服を来たキツネ顔の男性が優太を笑顔で迎え入れてくれた。
「あの……ここって……?」
優太がそう訊ねると、バーテンダーの服装をした男性が
「ここは、バーだよ」と言った。
「バー……ですか」
「そう。バー」
バーテンダーの服装をした男性、ではなくバーテンダーはそう言うと、細い目を更に目を細めた。
「それにしても、お客さん、珍しいね」
「え? ……何がですか?」
バーテンダーの言葉に、優太は首を傾げた。
確かに優太は引きこもりだけれど、でも初対面の人に出会って直ぐに珍しいと言われるような人種ではない。
強いていうなら、髪の毛が長いことくらいだけれど、それもさして珍しい程の長さではないし、髪の長さでいえば後ろで髪を縛っているバーテンダーも負けてはいない。
──もしかして、お客さん自体が珍しいということなのか?
現に今も客は優太しかいないわけだし、可能性はある。
「……いや、何でもないよ。それより、飲んでくの?」
「あ……」
優太は少し、考えた。
元々、優太は酒を買うためにコンビニに向かう途中だったのだ。酒を呑む、という意味ではこのバーでも目的は果たせる。
それに、この小さな店に入って、何の店か聞いておいて何もせずに帰るのも何となく気が引ける。
「飲んで、いきます」
「じゃあ、好きなところに座って」
バーテンダーにそう言われ、優太は五席あるカウンターのうちの真ん中の席に座った。
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