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しかし、すぐに真面目な顔に戻ると、
「分かってるのよ。彼女の事だって、本当は何とか出来たことくらい。ただ、足りなかったのはアタシの自信だけだってことも」と静かに言った。
「アタシはこの格好をやめる前に、もっと自分に自信を持つべきなのかもしれないわね」
「……そうだね」
「アタシ、今までインキュバスからも他のあやかしからも、人間からも変な目で見続けられてきたから、どうしても自分がいけないって思ってしまってたのよね」
マオはマロウブルーをグイッと飲み干し、続けた。
「……でも、九条ちゃんの言葉で目が覚めたわ。アタシはこれがアタシなんだから、いけないなんて思う必要ないわよね」
マオはそう言うと、ニッコリと笑った。
「アタシは、これからも『ありのままのアタシ』で行くわ!」
「それでいいと思うよ」
九条もそれに、嬉しそうに笑った。
ただ、
「……まぁ、かと言って、ロウも言ってたように、これからも僕らに襲いかかって言い訳じゃないけどね」
そう付け加えるのも忘れなかった。
「えっ! 違うの!? 襲いかかってこそのアタシなのに!?」
「いやぁ、人に迷惑を掛けるのはよくないよ」
「そんなこと言ってぇ。本当は嬉しいくせに♡」
完全復活したらしいマオが、カウンターを乗り越えんばかりの勢いで九条に近づいた。
それによって現場は、再び阿鼻叫喚に包まれることになった。
「う"ぁぁぁぁぁっ! ユタくーーーんっ!!」
「あらやだ、逃げちゃダメよぉ~ッ!!」
「九条さん……ありのままのマオさんをきちんと受け止めてあげないとダメですよ」
先程の騒動で学んだばかりの優太は、九条に盾にされる前にカウンターから飛び出した。
「えっ、ちょっ、ユタくん!? ……裏切り者ぉぉぉ!!」
「お幸せに……」
優太は攻防を続ける九条とマオに最高のキメ顔でそう言った。
しかし、九条も素直にやられるような人ではなかった。
「マオッ! 可愛いユタくんが逃げたよっ!」
優太は九条に売られた!
「あら、アナタ、ユタくんってお名前なのねぇ! カワイイお名前ねぇ!!」
案の定、ターゲットを九条から優太へと切り替えたマオが優太に迫った。
直ぐ様逃げようとしたが、マオのスピードは尋常なものではなく、優太は逃げ遅れた。
「く、九条さんんんっ!」
「自己紹介が遅くなっちゃったけどアタシ、インキュバスの一色マオ。よ・ろ・し・く♡」
マオはそう言いながら、優太の頬をつついた。
──天さん……!
優太は助けを求めて天を見た。
しかし、天は先程マオに迫られた事がトラウマなのか、「すまん、ユタ……」と言いながら優太から目を反らした。
──て、天さぁぁぁん!!
完全に味方を失った優太は、マオの真っ赤な唇が近づいてくるのを感じながら、意識を失った──……。
case.3 淫魔 終
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