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──この光景を見るのは二度目だな……。
優太は板張りの天井を見て、そう思った。
「うんしょ」と体を起こすと、そこはやはり見慣れた休憩室だった。
しかし、優太は倒れた経緯を覚えていなかった。
──確か、マオさんが来て……九条さんがマオさんの相談に乗って……で、マオさんの悩みが解決して……その後どうなったんだっけ?
思い出してみようと試みたけれど、何となく思い出さないようないいような気がしたので、やめた。まぁ、九条が言っていた事を忘れていないだけよしとしよう。
時計を見てみると、針は午前三時十分を指していた。ということは、今、店内にはロウや天、マオがいる可能性がある。
少し頭が痛むけれど、まずは三人と九条に謝るべきだと思い、優太はソファから降りて休憩室のドアを開け、ヒョコッと店内を覗き込んだ。
しかしそこには、九条の姿しかなかった。
「あ、ユタくん、目が覚めたみたいだね。大丈夫?」
酒を呑んでいた九条が優太の気配に気付き、直ぐに声を掛けてきてくれる。
「はい。すみません、またご迷惑をおかけして……」
「いーの、いーの。気にしない」
優太は、九条のこういうところが好きだ。
口が軽かったり、変な頑固さを発揮することがあるけれど、何だかんだ寛容で、優しい。
「ロウさんと、天さんと、マオさんは帰られてしまったんですか?」
「うん。本当は、ユタくんが目覚めるまで居座るって言ってたんだけどね。ユタくんがいない状態であの三人でいてもらっても何かカオスだったから、帰って貰ったよ」
九条はあっけらかんとそう言いながら、酒を少し口に含んだ。
そういえば、九条が酒を呑んでいるのを初めて見たような気がする、優太は思った。
「また今度、謝っておきます」
「いやいや、あの三人相手に謝罪は不要でしょ」
「そうはいかないですよ」
「真面目だねぇ、ユタくんは」
「普通だと思いますけど」
そう優太が言うと、九条は笑った。
「人間っていうのは、大変だねぇ」
***
取り敢えずお客さんもいないことだし、ということで今日は少し早いけど閉店ということになった。
本当なら閉店後は優太が皿洗いや清掃、九条が次の日の分の仕込みをするのだが、皿洗いと清掃を九条が既にやっておいてくれたので、優太はそのまま退勤という流れになった。
「今日は、何食べてく?」
いつものように、九条が訊いてきてくれる。
「いえ、今日はまともに働いていないですし、いいですよ」
「んー、体調悪くて食べれないって訳じゃないよね? じゃあ、食べてってよ」
そう言ってもらえるのは優太としては有り難い話だが、それでもやっぱり申し訳ないという気持ちは消えない。
「え、でも……」
「いいから、いいから」
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