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しかし結局、九条の強引さと"変な頑固さ"に根負けした優太は「オムライス食べたいです」と言ってカウンターに座った。
九条は上機嫌で「おっけー」と言うと、厨房に入って行った。あの感じだと、九条は優太に賄いを食べさせたいというより、ただ単に料理を振る舞うのが好きなのだろう。
「お待たせ」
厨房に入って行ったときと同じように上機嫌で出てきた九条がカウンターの上に置いたのは、何処かのお洒落な洋食屋さんで出てきそうな、ふわトロのオムライスだった。
「い、いただきます……!」
そっとスプーンを入れると、想像していた通りに卵がトロリとほどけた。それをそろそろと口に運ぶと、ふわふわ卵のほんのりした甘味と、チキンライスの塩味が和音のような絶妙な味を奏でた。
料理が出来ない優太からしたら、一体どんな過酷な修行をしたらこんな美味しいものが作れるのだろうかと思うほどの料理だ。
「相変わらず、美味しそうに食べるねぇ」
夢中になって食べる優太を見て、九条がそう笑いながら言った。
「だって、美味しいですもん」
「そう言ってもらえるなんて、腕の振るい甲斐があるよ」
そしていつものごとく、九条はお願いしていない料理まで次々と出してきてくれる。
ウインナーや手作りのフライドポテト、和風な角煮、その他諸々。
初めのうちはこうして沢山出してくれるのは有り難いけれど、採算は取れているのだろうか、あと太らないだろうかと料理が出てくるたびに優太は心配になっていた。
しかし、話を聞いている限り採算は大丈夫そうだし(どういう手法を使っているんだろうか)、体型もこの店に来た時から変わってないので今ではそういった心配はしなくなっていた。
「ご馳走さまでした!」
余裕で十のお皿を開けた優太は、幸せな気分で手を合わせた。
前まではどちらかというと少食だったのに、ここに来るようになってから大食いになった気が……いや、気のせいではなく大食いになったと優太は思った。
「お腹いっぱいになった?」
「はい、パンパンです」
「よし。じゃあ、後の片付けはしておくから。お疲れさま」
「いえ、でも……」
流石に仕事してない上に食べるだけ食べた状態で帰るのは申し訳なくて、優太はカウンターに入ろうとした。
けれどそれは、九条に押し止められてしまった。
「体調不良じゃないとはいえ、病み上がり君なんだから帰りなさい。今日の夜も仕事はあるんだしさ」
そう言われてしまえば、優太は何も言えなかった。
「う……はい……」
渋々ながらも、優太は大人しく店を出た。
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