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「ユタ、大丈夫なのか」
二十一時の開店と同時にやって来た天の一言目は、それだった。
いつも上がっている眉や目尻を下げ、心配そうに優太のことを見上げる姿は、小さい弟みたいで優太には何だか可愛く見えた。
無論、そんなことを言ったりしたら天が激怒するのは目に見えているので、口には出さないけれど。
「すみません、ご迷惑をお掛けしました。もう、大丈夫です」
「謝らなくてもいい。というか、『お掛けした』のは"迷惑"じゃなくて"心配"だ。迷惑なんてどうでもいい」
少し遅れてやって来たロウにも、同じようなことを言われた。
「迷惑? んなもん掛けられた覚えねぇよ。それより、もう大丈夫なのか?」
優太には、それがとても新鮮だった。
今までは体調を崩そうが、ぶっ倒れようが「迷惑」としか言われてこなかった優太にとって、ロウや天の言葉は信じられない言葉であり、有り難い言葉だった。
「ありがとうございます……!」
「礼を言われる筋合いもねぇよ。仲間を心配すんのは普通のことだろ?」
「仲間……」
「そう、仲間だ」
そう言うとロウは優太の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「……何だかロウさんって、お兄さんみたいですね」
優太がポツリとそう呟くと、
「お父さんみたいって言われなくて良かったぜ」とロウが笑った。
「年齢差的にはロウ、お爺さんだけどね」
「うるせぇ! 余計なこと言うな!!」
「……え、ロウさんって一体……」
いくつなんですか、と優太が聞こうとしたところでドアがけたたましい音を立てて開いた。
「来ぃたぁわぁよぉぉぉ!!」
「来るな!!」
昨日と同じように入ってきたマオに、直ぐに天が瓢箪を投げた。そしてそれは、見事にマオの額にヒットした。
しかし、天もマオには勝てないらしい。
「あらぁ、天ちゃんたら、本当は嬉しいくせに、素直じゃないんだからぁ♡」
「や、やめろ! 本気で来るな!!」
額に瓢箪が直撃しようがお構い無く迫り寄ってくるマオに、天は顔を真っ青にした。
「大丈夫よぉ♡ 焦らなくても天ちゃんのお相手、してあ・げ・る・か・ら♡」
「しなくていいっ!」
──それにしても、ロウさんとは未だに口を利かない天さんがマオさんと普通にやり取りしてるとは……。
これは、マオのキャラ故なのか、色魔要素のお陰なのか、何なのか。
そんなことを思いながら優太がロウの席の方をちらりと見やると、いつの間にかロウはいなくなっていた。
その代わりに、マオの「ぎゃっ!」という短い悲鳴が聞こえてきた。
「いったぁーい! ちょっとぉ、殴らないでよぉ!」
「天を困らすな、バカタレ!」
「だってぇ……」
「つーか、お前、ユタの具合を見に来たんじゃねぇのかよ?」
「そうだけど、天ちゃんが誘惑してくるからぁ……」
「してないっ!!」
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