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ロウとマオと天の世にも奇妙な組み合わせのやり取りに、優太は思わず小さく吹き出した。
それひとつで、三人の視線は優太に集まった。
──あ……。
優太は顔の血が引いていくのを感じた。
「す、すみません、笑ってしまって……」
優太は即座に笑みを引っ込め、謝った。
ロウに仲間だと言われて少し浮わついてしまっていたが、しかし考えてみれば、お客様のやり取りを聞いて笑うなんて、失礼だ。
しかし、三人の反応は、優太の思ったものとは違った。
「え、やだ、ユタくん、何で謝るのよ!?」
「俺ら、怒ってねぇからな!?」
「……え、でも」
優太は困惑した。だって、今のは確実に怒られる流れだったはずだ。
「……ユタ、笑うことは悪いことじゃない」
天が、静かに言う。
「笑いたいときに、笑っていいんだ」
「……笑いたいときに……」
「そうだ。さっきそこの狼男も言っていたが、俺らは仲間なんだから、気を遣ったり遠慮する必要はない」
天の言葉は、優太の心に深く染み入った。
──仲間なんだから……。
「そーよ。ただアタシたちは、ユタくんが笑ってくれて嬉しかったの。笑顔を見たくて、思わず見ちゃったのよ」
「あ? ユタ、俺らが見たこと気にしてんのか? んなもん、気にすんな、気にすんな!」
「あらやだ、ロウちゃんったら。原因わかってなかったの? 鈍感さんは、女の子に嫌われるわよ?」
「天に誘惑されたと勘違いするようなおめぇに言われたかねぇよ!!」
「あら、それは勘違いとは限らないでしょ? ねえ、天ちゃん♡」
「大いなる勘違いだっ!」
また、ぎゃいぎゃいと言い合いを始めた三人に、優太は今度は遠慮なく笑い声を上げた。
隣では九条も楽しそうにニコニコと笑っていた。
「ユタくん」
優太の視線に気づいたのか、九条が優太を呼んだ。
「はい」
「ここ、物凄くいいトコでしょ」
九条の問いに、優太は迷いなく答えた。
「はい。とても」
その答えに、九条が満面の笑みを浮かべた。
***
ロウはビール、マオにマロウブルー、天には焼酎、天からの奢りで優太の前にウーロン茶が置かれ、みんなで雑談をしていたときの事だった。
「アタシねぇ、こう見えてもアパレルで働いてるのよぉ」
「アパレルですか!」
「似合わねぇよな」
「それ、どういう意味? ロウちゃん?」
「だーっ! 顔を近づけてくんな!!」
マオがロウに迫り始めたところで、バーのドアがガタガタと音を立て始めた。
「今日って、台風でしたっけ?」
優太は九条に訊ねた。
「いや、多分これは台風っていうより……」
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