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九条が答えるより先に、先程まで激しく音を立てていたドアが、その音に反して静かに開いた。
「多分、吹雪だねぇ」
九条が言葉の続きを言った瞬間、店内にひんやりとした風が流れ込み、優太は身体を震わせた。
その風とともに、僅かに開いたドアの隙間から雪が入り込んで来て、店の床を濡らす。
──って、あれ? 今、五月……だよな?
季節外れの寒さと雪に優太が混乱しているうちに、
「ロウ! ユタくんを!!」
九条が早口でロウに指示を出した。
「おう!」
それに応じたロウは席を立ち、優太の前まで来ると、カウンターから身を乗り出させた。
「え? え?」
「ちょっと我慢しろよ」
ロウは優太の体に手を伸ばし、脇腹を持つと、そのまま優太を持ち上げた。
「わ、わわわわ!?」
「よっこいしょっと」
軽々と持ち上げられた優太の体はカウンターを越え、ロウの元に引き寄せられた。
そしてそのまま、何故かロウにきつく抱き締められた。
「ろ、ロウさん……! 俺、そういう趣味はないんですけど……!」
「俺もねぇわ! でも、お前を守る手段がこれしかねぇんだよ!」
優太は首を傾げた。
──守るとは、一体どういうことだろう?
そうこうしているうちに、僅かに開いていたドアが更に開き、コートを着た女性が身を滑らせるようにして入ってきた。
その瞬間、店内の温度が急激に下がったのを、優太は感じた。
「いらっしゃい」
しかし、そんなことは全く気にしていない風の九条が、女性に声をかけた。
女性は少し間を置いたあと、静かに口を開いた。
「……さ、」
「さ?」
「寒い……」
女性が、掠れた声でそう言った。
その時、優太は信じられないものを目にした。
さっきまで優太がいた場所にあったウーロン茶が、ピシリという音を立てて凍りつき、壁には雪が張り付いた。
店内は、一瞬にして、巨大冷凍庫のような──いや、北極のような状態に変化した。
「な……っ」
「ユタ、俺から離れるなよ。何なら、スカジャンを体に回せ」
「ていうかロウさん、何でこんな状況なのに大丈夫なんですか!?」
「俺は基礎体温が馬鹿みたいに高いからな。こんなの余裕だ」
「もしかして、それで俺を……?」
「俺が抱き締めるのやめたら、ユタは一瞬で凍るぞ」
「……ありがとうございます」
守るというのはそういうことか、と納得するのと同時に、優太は漸く周りの状況を冷静に見ることが出来るようになった。
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