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九条、マオ、天はあやかしだから大丈夫なのか、何事も起きていないかのように、ただただ新たな来店者の方を見ていた。
その新たな来店者である女性はというと、入口のところで突っ立ったまま店内をじぃっと見ていた。
しかしフードを被っている上に俯いているので顔は見えず、その体にはジャケットやダッフルコート、ダウンなどのありとあらゆる防寒服が乗っかっていて、体型も分からなかった。
「寒い……寒い……」
それでも、女性は「寒い」とぼそぼそと呟き続けていた。極度の寒がりのようだ。
その様子を見ていた九条が、「なるほどね」と言った。
「雪女か」
「ゆ、雪女!?」
優太は思わず、声を上げた。
──この寒がりの人が、雪女……とは……。
「……寒い……」
雪女は九条の質問には答えずにただ、そう言った。
それを九条は「イエス」という意味にとらえたのか、満足げに頷いた。
一方、マオはその言葉を受けて、何故か立ち上がった。
「アナタ、寒いの?」
「……寒い……っ」
「そう! そんなに寒いなら、アタシが温めてあ・げ……」
マオは雪女さんに襲いかかろうとした。
しかし。
「寒い!!」
雪女が今までよりも少し強めに言うと、マオが駆け寄っていくような格好のまま、ピシッと固まった。
「……馬鹿だな」
天がマオの体をノックするように叩くと、コンコンという音がした。
「……凍ってるんですか?」
優太が訪ねると、
「ああ。綺麗に凍ってる」という返事が来た。
──もしかしたら、雪女さんが「寒い」って言うと、寒くなったり凍ったりするのかな……?
実際に、優太はロウの体温があるので少し分かりづらいが、でも雪女が「寒い」と言う度に室温が下がっているような感じがしていた。
──ということは、雪女は自分で自分の首を絞めているのでは……?
優太はそう思ったが、強めの「寒い!」を言われてしまった場合、ロウまで凍らされてしまう可能性があるので言わないでおいた。
「雪女さん、取り敢えず座りなよ」
「寒い……」
「寒い」は返事の役割も果たしているらしい。
雪女はガタガタと震えながらも足を進め、天の二つ隣の席に座った。
「さて、雪女さんは何を飲む?」
「……寒い」
「うーん、流石にお酒の名前まではわからないなぁ。取り敢えず、水系を使わないものじゃないと作れないよね……」
九条はそう言いながら飲み水用の蛇口を捻った。しかし、そもそも蛇口のハンドルが凍っているのか、回ることすらしなかった。
「あれま。見事に凍ってるねぇ」
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