case.4 雪女

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 九条、マオ、天はあやかしだから大丈夫なのか、何事も起きていないかのように、ただただ新たな来店者の方を見ていた。  その新たな来店者である女性はというと、入口のところで突っ立ったまま店内をじぃっと見ていた。  しかしフードを被っている上に俯いているので顔は見えず、その体にはジャケットやダッフルコート、ダウンなどのありとあらゆる防寒服が乗っかっていて、体型も分からなかった。 「寒い……寒い……」  それでも、女性は「寒い」とぼそぼそと呟き続けていた。極度の寒がりのようだ。  その様子を見ていた九条が、「なるほどね」と言った。 「雪女か」 「ゆ、雪女!?」  優太は思わず、声を上げた。  ──この寒がりの人が、雪女……とは……。 「……寒い……」  雪女は九条の質問には答えずにただ、そう言った。  それを九条は「イエス」という意味にとらえたのか、満足げに頷いた。  一方、マオはその言葉を受けて、何故か立ち上がった。 「アナタ、寒いの?」 「……寒い……っ」 「そう! そんなに寒いなら、アタシが温めてあ・げ……」  マオは雪女さんに襲いかかろうとした。  しかし。 「寒い!!」  雪女が今までよりも少し強めに言うと、マオが駆け寄っていくような格好のまま、ピシッと固まった。 「……馬鹿だな」  天がマオの体をノックするように叩くと、コンコンという音がした。 「……凍ってるんですか?」  優太が訪ねると、 「ああ。綺麗に凍ってる」という返事が来た。  ──もしかしたら、雪女さんが「寒い」って言うと、寒くなったり凍ったりするのかな……?  実際に、優太はロウの体温があるので少し分かりづらいが、でも雪女が「寒い」と言う度に室温が下がっているような感じがしていた。  ──ということは、雪女は自分で自分の首を絞めているのでは……?  優太はそう思ったが、強めの「寒い!」を言われてしまった場合、ロウまで凍らされてしまう可能性があるので言わないでおいた。 「雪女さん、取り敢えず座りなよ」 「寒い……」  「寒い」は返事の役割も果たしているらしい。  雪女はガタガタと震えながらも足を進め、天の二つ隣の席に座った。 「さて、雪女さんは何を飲む?」 「……寒い」 「うーん、流石にお酒の名前まではわからないなぁ。取り敢えず、水系を使わないものじゃないと作れないよね……」  九条はそう言いながら飲み水用の蛇口を捻った。しかし、そもそも蛇口のハンドルが凍っているのか、回ることすらしなかった。 「あれま。見事に凍ってるねぇ」  
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