case.4 雪女

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 仕方なく水道は諦めた九条はショーケースに入っているお酒を吟味し始めた。 「寒いってことだから、温まるものがいいよね。でも、お酒以外の液体は使えないし、水が使えないから湯を沸かすことも出来ないし……」 「え、待ってください」  優太は口を挟んだ。 「お酒は、凍らないんですか?」 「この寒さだと流石にビールは凍るけど、アルコール度数が高いものは凍らないよ。ホラ」  九条は天の焼酎を手に取ると、優太に中身を見せた。  そこには確かに、凍っていない焼酎が入っていた。 「本当だ……!」 「これが水割りとかだったら凍るけどね。天くんの場合、ロックだから。マオのマロウブルーも飲み干しちゃってるから見せられないけど、度数が高いから凍らないよ」 「ほぇー」  優太は感嘆の声を上げた。お酒も氷河期が来たら凍ると思ったが、キツいものなら大丈夫そうだ。もっとも、その頃には飲む人はいないだろうけれど。 「寒い……」 「あ、そうそう。ごめんね。すぐお酒作るからね」  ショーケースから赤ワインをチョイスした九条は、蓋を開けて「よし、まだ凍ってないね」と中身を確認した。 「ワインはビールより度数が高いから、凍るまでに少し時間が掛かるんだよ。流石に、もうすぐ凍っちゃいそうだけどね」  そう言いながら持ち手付きのグラスにワインを注ぎ入れた九条は、「凍るぅ~!」と言いながら急いで裏に行った。  暫くして戻ってきた九条の手には、ほかほかと湯気をたてるワインがあった。 「間に合った、間に合った。はい、ホットワインだよ」  そう、ホットワインを雪女の前に置くと、雪女は不思議そうにその飲み物を見つめた。 「……温かそう……」  初めて、雪女が「寒い」以外の言葉を口にした。 「それ飲むと、温まるよ」 「……」  雪女は寒さで震える手を伸ばし、ホットワインが入っているグラスの持ち手を持った。  その時、ふわりとホットワインの香りが優太の元にまで漂ってきた。  ──あれ、この香りは……シナモン?  優太がそう思うのと同時に、雪女がグラスをカタカタと音を立てながらホットワインを口に含んだ。 「……温かい」 「体の芯まで温まるでしょ?」 「……あったかい!」  雪女がそう言うと、店内の温度が急激に上がった。  凍っていたウーロン茶とビールは溶けて液状に戻り、壁に張り付いていた雪は水滴へと変わった。 「温かい! すごく! ポカポカする!」  雪女が子供みたいに無邪気にはしゃぐように言う。 「そうでしょ?」 「こんなに体が温かいの、初めて!」
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