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そんな二人の不毛なやり取りの間に入ったのは、バーテンダーだった。
「このオオカミは元からこんなこっわーい形相してるんだよ。だから気にしなくていいんだよ」
「そ、そうです……か?」
「ずっとそういってんだろ! 気にせずに飲め飲め!」
バーテンダーとロウに言われ、優太は漸く椅子に座った。
「全く。どっちかというと、迷惑なのはロウの方だよ。来るお客さんお客さん、みーんなビビらせちゃってさ」
「うっせぇ。この顔つきは元々だからしゃあねぇだろ」
ロウは優太の後ろを通り、一番端っこの席に座ると、「取りあえずビール」と言った。
「ごめんね。怖がらせちゃって。このオオカミにはキツーくお灸を据えておくから」
「いえ……あの、それより俺、名前言いましたっけ……?」
「うん? ああ、まぁ聞いてないけど分かるよ」
バーテンダーは何やらかき混ぜながら、よく分からないことを言った。
名乗っていないのに名前がわかるって、どういうことなのだろう?
「どうして……」
その疑問に答えたのは、バーテンダーではなく、ロウだった。
「おいおい、九条。この店がどんな店だとか言ってねぇのかよ」
「うん。まぁね。言うつもりもなかったし。でも、一般のお客さんを怖がらせたお詫びに、君にはお灸を据えなきゃいけないよね」
「え、おい、やめろ!」
何故かロウが激しく慌て出し、逃げようと試みだした。しかし、ロウはその席から動くことはなかった。
「おい、九条! てめぇまた術かけやがったな!!」
「逃げられないようにはそうするしかないでしょ」
優太は訳の分からないまま、そんな二人の様子を見守った。
やがて、「離せ!」「早く解け!!」と騒いでいる狼の元に、クープグラス(平たくて丸いグラス)に入った黄色いお酒がロウの目の前に置かれた。
「優太くん、このお店のことで、ひとつ言い忘れてたことがあるんだ」
「え……」
「このお店はねぇ……」
バーテンダーがそこまで言ったところで、ロウの「うわぁぁぁ!」という叫び声が聞こえてきた。
優太が慌ててそちらを見ると、そこにいたはずのロウがいなかった。
いや、正確には、ロウではない何かはいた。
耳の生えた頭に、鋭い牙。毛むくじゃらの身体には、先程までロウが着ていたスカジャンが今にもはち切れそうになりながらもくっついている。
「ここはね、人外……つまり、゙あやかじが集まるバーなんだよ」
「あや……かし……?」
「このロウは、狼男。黄色くて丸いものを見るとオオカミに変身するんだよ」
バーテンダーがそう言いながら狼男──ロウの体をポンポンと叩くと、ロウが恨めしそうに「ヴヴヴヴ……」と唸った。
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