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「珍しい、人間のお客さんをビビらせてしまった罰だよ」
バーテンダーのその言葉で、優太は思い出した。
優太がここに来てすぐ、バーテンダーが優太を見て「珍しいね」と言ったことを。
「バ、バーテンダーさんが珍しいねって言ったのって、もしかして……」
「そ。人間のお客さんなんて珍しいねって意味だよ」
優太は絶句した。
──お客さん自体が珍しいんじゃなくて、俺という存在が珍しかったのか……!
そりゃあ、珍しいって言うわけだ。
「じゃあ、もしかしてバーテンダーさんも……?」
「うん、そうだよー」
バーテンダーがそういうと、バーテンダーの後ろから白い何かがヒョッコリと顔を出した。
いや、違う。顔じゃない。
あれはふさふさの尻尾だ。しかも、九尾。
そして、キツネ顔のバーテンダーの頭には、耳。まさか……。
「九尾の狐……」
「そ。せーかーい☆」
優太の世界がグルグルと回る。
頭がついていかない。ていうか、信じられない。
「あやかし」という者の存在は知っていたけれど、それは都市伝説的な感じで現実に存在するとは思ってもいなかったし、それより何より、そんな者たちが集まるバーに、自分が足を踏み込むなんて思ってもみなかった。
狼男……九尾の狐……化物……妖怪……あやかし……。
色んな苦悩があったといえど、それでもここに比べたらごくごく普通の生活を送ってきた優太の頭は、一気にキャパオーバーした。
「「あ」」
ロウとバーテンダーが気づいたときには、もう遅かった。
優太は重力に従って、けたたましい音を立てて椅子から落下した。
「……あー、刺激が強かったかー」
「お前のせいだぞ! 九条!!」
それが、優太が聞いた最後の言葉だった。
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