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「ん……んぁ……?」
優太が目を覚ますと、そこには自宅の古びた天井……ではなく、板張りの天井があった。
──ここは……?
「あ、目を覚ましたね」
不意に聞こえてきた声に、優太が視線を向けると、そこにはキツネ顔のバーテンダーが向かいのソファに座っていた。
──そうだ。俺、酒を買いに家を出て……でもバーに入り込んで……でもそのバーが妖怪だらけで……。
「……九尾の狐さん」
「あ、記憶はあるみたいだね。良かった、良かった」
優太が体を起こすと、そこは小さな部屋だった。
小さいテーブルと、ソファが二つあるだけの部屋。そのソファの一つに優太は寝かされていた。
「ごめんね、うちのオオカミが驚かせちゃったみたいで。はい、水飲みな」
「……ありがとうございます」
実際、驚いたのはバーテンダーのせいですけどね、と思いながらも優太は差し出された水を受け取った。
それを口に流し込むと、冷たい感触が喉を刺激して頭がスッキリとした気がした。
「ところで、優太くん」
優太が落ち着いたところで、バーテンダーが優しく声を掛けてきた。
「はい」
「君、仕事とかしてるのかい?」
「え? ……し、してませんけど……」
「そう。じゃあさ、良かったらうちで働かない?」
バーテンダーからの予想外の提案に、優太は思わずコップを取り落としそうになった。
「え!? な、何でですか……?!」
「いやいや、そんな身構えなくても、取って食うつもりじゃないから安心してよ」
「……本当ですか?」
「確かにキツネは肉食だけどさ」
優太は逃げようとした。
しかし、バーテンダーに腕を掴まれてしまった。
「流石に食べたりしないよ」
「いやいや、本当に食べないつもりなら肉食って情報いらなかったでしょう!?」
「じょーだんだって。……肉食は事実だけどさ」
「最後の一言が余計なんですよ!」
バーテンダーがどこからどこまでが本気なのか、優太には分からなかった。
とにかく、怖い。早くお家に帰りたい。そして、引きこもりたい。
「本当に食べないから安心してよ。僕が食べるのは牛とか豚とか鶏だからさ。あれだよ、ホラ。人間と一緒だよ」
「……とかいって、」
「そもそも、市販の豚肉とかの方がお手軽で、食べやすいじゃない。人を食べる事にメリットを感じないね」
「そういう問題ですか……?」
「そういう問題だよ。ロウだっておんなじこと言ってたしさ」
その一言で、優太は思い出した。
「そういえば、あの狼男さん、大丈夫なんですか? 変身してましたけど……」
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