1

1/4
前へ
/625ページ
次へ

1

「おいちょっと待て!」  あっさりと助手席のドアを開ける宵闇の肩をつかんで、ヤツを止める。 「え? 何か忘れ物あったか?」 「あるわ!」  つい何時間か前。  こいつからスマホの画面を通して俺に贈られたのは、「すきだ」って告白。  俺の返答は、指で描いたでっけぇハートマーク。  どう考えても、その瞬間からこいつは俺の彼氏だ。俺もこいつの彼氏だ。そう思って間違いねぇだろ。 「何だっけ」  宵闇は自分が持っているバッグを見てから、車内をきょろきょろと見回す。思い当たる節はないようだ。  こいつの脳内はどうなってんだ。中学生か。童貞か。 「あ、ベースは忘れてないぞ?」  後部座席を指さしてそう言う。 「お前がベース忘れたらぶん殴るわ」  仮にもこいつは、俺のバンドであるベルノワールのリーダーでベーシストだ。命の次にベースは大事にしやがれ。俺はその次だ。 「じゃあ、何だ…?」  首を傾げる。いや、あるだろ。  本日よりめでたくお付き合いすることになりました。宵闇んちの前まで、車で送りました。おやすみって言いました。  ヒント3つもあるだろ。 「何だじゃねぇだろ」 「これとベースだけしか持ってきてない」
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加