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「もう一個!」  宵闇はまじまじと俺の顔を見る。そう、それだ、それ。  首がゆっくりと傾く。 「…いや、他にはないけど」  イライラするなこいつは!  俺は手を伸ばして、ヤツの銀色の前髪を上げる。半分くらい隠れてたこいつの素顔は、めちゃめちゃ涼し気なイケメンだ。黒目がちな切れ長の目が、驚いて俺を見つめてる。 「えっ? な、なに、夕」 「忘れもんだ」  俺は体を助手席に乗り出して、ヤツにキスをする。  宵闇は硬直して動かねぇ。俺はそれなりに濃厚で熱いヤツをしてやろうとしてんだけど、こいつの唇は閉じたまんまだ。  マジで童貞じゃねぇだろうな。キスくらいしたことあるだろ。  いつまでも唇は開かないし、舌入れてやろうとしても、がっちり歯を食いしばってるし。何で食いしばってんだ。殴るぞ。  何なら抱きしめやがれ。  とか思ってても、こいつ完全にフリーズしてる。何のつもりの「すきだ」だ。  しゃーないので、適当に切り上げて離れる。 「おい、宵」 「宵…」  闇を省略して呼んでやると、嬉しそうに固まってた表情をほわっと緩めた。
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