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 宵闇の指示通り、フロアに一切リアクションはせず、ドラムセットに入る。すぐに愛用の赤いコンバースに履き替えて、スツールの高さやペダルの踏み込み具合、太鼓の位置、ハイハットの開き具合なんかを確認する。思った通り、小木くんの仕事はきっちりしてる。リハーサル前の状態にぴったり戻してある。  そうしてる間にも、礼華が位置につき、宵闇が入って来る。  フロアを見渡す。一番後ろまで人が詰まってる。案外、こっちから皆の表情ってわかるんだよ。期待に満ちて目をギラつかせてる。今にも飛びかかって来そうだぜ。  いい眺めだ。ドラムセットからの景色は最高だ。フロアは勿論、メンバーの姿も全部見えるんだからな。VIP席だ。  朱雨が位置につく。そして、綺悧が入って来て、センターのマイクスタンドの前に立ち、俯く。  悲鳴にも似た歓声が、再び巻き起こる。  古い扉が軋みながら閉じる音。惨劇を予兆させる、不吉な賛美歌が流れ込み、ヴォリュームを上げて。  そして、俺の耳にクリックが合図をする。  1、2、1、2、3、4。
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