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「皆バッチリ覚えてくれてるね! オンドラムス、夕!」  フリーでロールを打ち鳴らすと、お客さんの声が返ってくる。 「自己紹介する?」 「いやいや、いいだろ別に」  顔と名前を覚えてもらって、音を聴いてもらえたら、俺の自己紹介なんかそれで充分だ。 「じゃあ、俺から一言紹介しよっかな」  綺悧は俺の顔を見てにっこり笑うと、フロアの方へ顔を向ける。 「夕さん、赤いコンバース履いてます」 「またそれかい!」  前回のライブで、このまんまうっかり前に出ちまったんだよな。そりゃもう笑われた。衣装と合ってないことはわかってるから、めちゃめちゃ恥ずかしかったわ。 「今日も履いてる?」 「履いてるわ。これが一番叩きやすいんだよ」  足もプレイに使うドラムだから、衣装と別にプレイ用の靴を用意してるドラマーは少なくねぇと思う。  どの靴がいいなんて決まりはなくて、やっぱり自分の足に合ってて、履きやすいものが一番だ。俺の場合は、コンバースのハイカットが中学から長年の定番。 「ちょっとだけ見せてよ」 「は?」  別にこんなもん見たくねぇだろ、って思ったけど、お客さんから見せてー! って声が聞こえる。
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