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「おいちょっと待て!」
あっさりと助手席のドアを開ける宵闇の肩をつかんで、ヤツを止める。
「え? 何か忘れ物あったか?」
「あるわ!」
つい何時間か前。
こいつからスマホの画面を通して俺に贈られたのは、「すきだ」って告白。
俺の返答は、指で描いたでっけぇハートマーク。
どう考えても、その瞬間からこいつは俺の彼氏だ。俺もこいつの彼氏だ。そう思って間違いねぇだろ。
「何だっけ」
宵闇は自分が持っているバッグを見てから、車内をきょろきょろと見回す。思い当たる節はないようだ。
こいつの脳内はどうなってんだ。中学生か。童貞か。
「あ、ベースは忘れてないぞ?」
後部座席を指さしてそう言う。
「お前がベース忘れたらぶん殴るわ」
仮にもこいつは、俺のバンドであるベルノワールのリーダーでベーシストだ。命の次にベースは大事にしやがれ。俺はその次だ。
「じゃあ、何だ…?」
首を傾げる。いや、あるだろ。
本日よりめでたくお付き合いすることになりました。宵闇んちの前まで、車で送りました。おやすみって言いました。
ヒント3つもあるだろ。
「何だじゃねぇだろ」
「これとベースだけしか持ってきてない」
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